土地に執着する気質=中村秀明

毎日新聞、中村秀明論説委員の27日の水説。

土地に執着する気質=中村秀明
毎日新聞2017年9月27日 東京朝刊
 <sui-setsu>

 日本ほど地価に神経質な国はないそうだ。

 年3回も公的機関が地価を探るのはそのせいだろう。国土交通省による地価公示、国税庁の路線価、都道府県が調べる基準地価である。

 三つ目の結果が先日明らかになった。全国約2万2000地点を大きくくくれば「26年連続の値下がりだが、下落の幅は8年連続で縮小した」とわかった。

 少し細かく見れば、3大都市圏では京都をはじめ大阪圏の商業地が大きく上昇した。地方では札幌、仙台、広島、福岡といった中核都市が上がり、それ以外は低迷中だ。

 とりまとめた国交省に値上がりした地点について聞くと、「新しい高速道路や鉄道路線の開通」「駅前や中心市街地の再開発」「外国人観光客の増加」の三つのうちどれかが要因にあがった。「どれも国交省がいち押しの政策ですね」と皮肉ると苦笑しつつ、ある例をあげた。

 子育て支援策を続ける静岡県長泉町(ながいずみちょう)だ。早くから中学3年までの医療費を無料とするなどの取り組みで出生率は県内1位。県全体の住宅地が1・2%下がった中、0・4%上昇した。

 地道な対応の成果でもあるが、首都圏に新幹線通勤できる三島駅がすぐ近くにある立地は大きい。「新幹線がほしい」という各地の声と整備新幹線事業を手がける国交省も後押しするような事例だ。

 そもそも地価が上がるのは前向きにとらえるべきことだろうか。長泉町の場合、移り住みたい人は「家賃が高く家探しは大変だ」という。土地を持つ人も、手放さない限り利益は手にできない。

 土地への執着や地価へのこだわりは日本人に染みついた気質だという分析がある。

 「欧米だと土地は、最後には神に返さなくてはいけないという公的な色彩が強く、活用すべきものだと考えている。日本では神すら宿るものと信じ、守っていかなければいけないという意識が強い」

 「日本人と不動産」(平凡社)を書いた吉村慎治さんに聞いた話だ。

 売るつもりはなくても大切にしているものの値段が気になるのは、テレビの骨董(こっとう)品鑑定番組を見ればよくわかる。

 こんな心理が土地神話を支え、新たな価値をもたらしそうな開発や建設が「起爆剤」の言葉とともに肯定されてきた。その結果、部分的にはきれいで洗練されていても、広く見渡せば美しさや温かみのない街づくりがせわしなく続いている。気質論に立つ吉村さんは「それが日本の風景です」と語った。(論説委員)
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