障害者の事業所、相次ぐ閉鎖 背景に「助成金頼み」?


儲けでは障がい者は救われない。
障がい者本人、障がい者の家族・親戚・知人、養護学校、特別支援学校の先生、障がい者を真剣に応援している方が経営している場合は、信頼性が高い。

障害者の事業所、相次ぐ閉鎖 背景に「助成金頼み」?

佐藤啓介、船崎桜

2017年10月2日06時00分

 障害者たちの働く場となる事業所で、経営が行き詰まって閉鎖される事態が相次いでいる。「助成金頼み」になりかねない構造が背景にある可能性もあり、厚生労働省が対応に乗り出した。

■5カ所225人、突然失職

 7月末、岡山県倉敷市にある五つの事業所が一斉に閉鎖された。利用していた障害者たちが閉鎖を知ったのは、その1カ月ほど前だった。

 事業所は3年前から今年にかけて、倉敷市の指定を受けて設置。一般社団法人「あじさいの輪」と、その理事長が経営する株式会社が運営していた。チラシの封入や軍手の補修といった業務をしていたが、「経営が厳しくなり、給与を支払えなくなった」ことが閉鎖の理由だった。

 閉鎖で職を失った利用者は計225人。倉敷市は7~8月にハローワークなどと共同で企業の合同説明会や面接会を開いたが、9月中旬までに再就職が決まったのは83人にとどまる。

 ログイン前の続き解雇された男性(56)は10年ほど前まで一般企業で働いていたが、うつ病に悩んで退職。3年前にハローワークで求人を知り、この事業所で働き始めたという。9月半ばに別の事業所での就労が決まったが、「同じことがまた起きないか不安。一般企業で働けない事情があり、制約も多いので事業所を自由に選べるわけではない」と漏らす。

 名古屋市の株式会社「障がい者支援機構」が愛知県内で運営する二つの事業所では8月上旬、経営難を理由に約70人の解雇が突然告げられた。市などによると、「資金繰りができず、給与を払えなくなった」と説明したという。

 同社は、さいたま市などで他に四つの事業所を運営。各自治体によると、いずれも経営難などを理由に事実上、閉鎖状態だという。

■助成多い「A型」急増

 閉鎖された事業所は、障害者総合支援法に基づく「就労継続支援A型事業所」だった。A型事業所は3月末時点で全国に3596カ所ある。5年間で3倍以上になった。

 急増している背景には、国からの手厚い助成がある。一人雇うごとに平均で月12万3千円(16年12月時点)の助成があり、さらにハローワークなどを通じて雇用した場合は最大で一人につき3年間で240万円が支給される。

 ただ、事業で利益を上げていくのは容易ではない。

 全国のA型事業所でつくる「全Aネット」が9月に発表した調査(回答942事業所)によると、助成金を除く事業収益は平均で年間780万円超の赤字だった。同ネットの久保寺一男理事長は「多くの事業者は努力している」とした上で、「経営の見通しが甘い事業者だけでなく、助成金目当てで経営努力を放棄していたり、助成金の出る期間が過ぎると利用者に離職を促したりする悪質な事業者もある」と指摘する。

 倉敷市の事業所の場合、市は「運営に大きな問題はなかった」とする。だが、岡山県の「A型事業所協議会」代表の萩原義文さんは「実地調査などで運営実態を把握し、指導できなかった市の責任も大きい」としている。

■国、監督強化

 厚労省は4月に制度を見直した。A型事業所に対し、利用者の具体的な支援方針をまとめた計画書の作成などを徹底。運営経費を除く事業収入が賃金の総額を上回ることを求めた。達成できない場合は改善計画を提出させるなど運営状況の監督も強化。助成金への依存度が高く、運営が不適切だと判断したら、指定の取り消しも検討する。

 厚労省の担当者は「経営状況を見直し、事業の持続性や就労の質の向上に努めてもらいたい」と狙いを話す。

 高知県で障害者就労支援のNPO法人も運営する日本財団の竹村利道さんは「事業所は利用者の就労スキルを向上させ、自立した生活につなげていくための支援ができているかが問われる。今後は淘汰(とうた)も進むのではないか」とみている。(佐藤啓介、船崎桜)

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〈就労継続支援A型事業所〉 一般就労が難しい障害者らに就労の機会を提供する事業として、2006年施行の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)で制度化された。利用者は事業者と雇用契約を結び、最低賃金が保証される。17年3月末で約6万6千人が利用している。食品の製造販売や清掃作業などの仕事が多く、15年度の平均賃金は月約6万8千円。一方、B型事業所は雇用契約を結ばない形で、工賃が支払われる。15年度の平均工賃は月約1万5千円。

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〈障害福祉行政に詳しい平野方紹(まさあき)・立教大教授の話〉

 A型事業は、自立をめざす福祉サービスと最低賃金を保証する労働施策という二重の制度になっており、立ち位置があいまいだ。ある程度働く力のある障害者には欠かせない場だが、事業者の「性善説」に基づく制度のため「もうける手段」となっている現実もある。

 助成金に頼りすぎず安定的に雇用が守れる経営に向け、生産性重視の民間企業とは違って時間と手間をかけて付加価値を生む仕事を見つける努力が事業者に求められる。利用者の立場に立って経営状況や就労態勢が適切かをチェックする仕組みも必要だ。

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