「障がい者活用団体のビジネスマッチング会」にイノベーションを生み出す予兆を感じた

 人を大切にする経営学会は2月27日、東京・大手町にあるJOB HUB SQUARE(パソナグループ本部)2階大ホールで障がい者就労施設と企業とのビジネスマッチング会を開いた。障がい者就労施設のビジネスマッチングはまずない。学会がビジネスマッチングをやることもまずないが、「誰もやらないのならわれわれがやろう」(坂本光司学会長)と初めての試みを行った。
 今はおおげさに聞こえるかもしれないが将来、日本の経済史の上でも意義深い試みだった振り返ることができそうな先駆的な試みだったので、簡単な報告と感想をお伝えたいしておきたい。
 私はたまたま準備会議にオブザーバー参加したが、事務局ではない。以下の内容も公式の報告ではなく、ジャーナリスティックな報告であると予め断っておきたい。この会は関係者のボランティアで運営されており、出展者の出展費用も無料だと聞いている。
 まず概要。障がい者就労施設の参加企業(法人)は20社。午前10時から午後16時まで各社代表者による10分の「プレゼン」とその合間のブースにおける「展示商談会」を参加した企業などに対して行った。
 このブログで個別企業のプレゼンなどをとりあげるのは困難であり、また仕様上、アップできる写真が限られるため、私が感じた特徴3つと簡単な説明を付ける形で報告する。  
 私が感じた特徴の第1は、参加法人の多くが障がい者が多いだけでなく、障がい者活用の先進企業(法人)ということ。
 坂本光司学会長が著書の「日本でいちばん大切にしたい会社」で取り上げ、学会が「同大賞」で表彰している、などすばらしい法人がそろっていた。
チョークのトップ、日本理化学工業株式会社(川崎市)は同名シリーズ1冊目、株式会社ラグーナ出版(鹿児島市)はシリーズ3冊目で取り上げられている。また安倍晋三総理夫妻も利用したフレンチレストランなどを運営する社会福祉法人藍(アンシェーヌ藍・世田谷区)や「農福連携」先進企業の埼玉福興株式会社(熊谷市)などは「幸せな職場のつくり方」(坂本光司研究室)で取り上げられている。
 さらに株式会社きものブレイン(新潟県十日町市)は第2回目、社会福祉法人アンサンブル会(長野県下伊那郡松川町)は第6回目、株式会社特殊衣料(札幌市)は第7回目の大賞の実行委員会特別賞等を受賞している。チョコレート工房の一般社団法人AOH(ショコラボ・横浜市)は近く授賞式が開かれる第9回目の同賞を受賞する。
 参加団体の資料を後でチェックした中で見逃せない情報があったので紹介しておきたい。アンサンブル会の話だ。同会は就労継続支援B型事業所(障がい者との雇用契約はなく、労働法制の対象外)やグループホーム事業を手掛けており平成29年夏にゼミ合宿で訪問している。チラシによれば、平成30年に「老後生活支援基金」を創設、働けなくなって工賃3万円(B型事業所の工賃の全国平均は1万5,600円)をもらえなくなっても、また親が亡くなっても暮らせるようになったという。
 私が感じた特徴の第2は、プレゼンでは経営者の多くがどのような思いで事業をやっているかについて語っていたこと。
 私は、企業は製品・サービスを売り込む前に、企業や人間を売るべきだと思っている。だが中小企業の多くはその使命やビジョンを確立できていない、大企業の多くは理念があってもお飾りになっている、などのためそうしたプレゼンは容易にできないものだ。
 そうした中、高い志を立てて事業に取り組む姿勢は、障がい者を積極的に活用する法人の強みと感じた。大きな夢を抱き、今は存在しない世界をつくろうというベンチャービジネスの創業者との共通性を感じることができた。
 ちなみに参加団体の理念の例をあげてみよう。
 ショコラボは、「全ての人々に平等に接し、障がい者・高齢者・健常者が共生するコミュニティ作りで、関与する全ての人々に物心両面の豊かさを感じられる仕組みづくりで社会貢献する」との理念を掲げている。
 またラグーナ出版は「精神医療福祉の経験と出版の技能を生かして、地域に愛され役立つ会社作りを目指します」としている。同社は就労継続支援A型事業所(障がい者と雇用契約を結んでいる事業所)。NHKハートネットTVに取り上げられるなどメディア頻出企業だ。
 私が感じた特徴の第3は障がい者が強みとなっている製品・サービスが多くみられていること。経営者からは「障がい者への同情ではなく、商品がいいから買ってもらえるようにしたい」との話があったが、健常者が真似のできない製品・サービスがあるのだ。
 障がい者を積極的に活用する企業は、仕事に人間が合わせるのではなく、人間に仕事を合わせる。日本理化学工業は社員86名のうち64名が障がい者。作業は工程別に分解されており、一つの作業を長時間行う。平成29年に視察した時、私には真似ができない作業に取り組む彼らを目の当たりにした。
 強み発揮の例のひとつは障がい者アート。株式会社フクフクプラス(世田谷区)と株式会社パソナハートフル(千代田区)が出展していた。前者は、対話型アート鑑賞法という先端的な手法を使った企業研修事業の素材として障がい者アートを活用する(写真はフクフクプラスのパンフから。障がい者アートに癒しの効果)
 今回参加した法人は障がい者積極活用法人のごく一部だ。私が感じた3つの特徴がクローズアップされていけば、5年もしないうちに日本のイノベーションを生み出すレアなホットスポットになっていくのではないか、と思われた。
神原哲也(人を大切にする経営学会会員・中小企業診断士・認定経営革新等支援機関・日本記者クラブ会員)

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