「シェアワーカー」が「人を大切にする経営」に投げかける問題

 シェアリングエコノミーの代表的プレイヤーであるウーバーが11日にSEC(米証券取引市場)に新規株式公開を申請した。上場時の時価総額が1000億㌦(11兆円)と米国で今年最大の上場案件になり、さらにその筆頭株主がソフトバンクであるとあって大きなニュースになっている。
 日本におけるシェアリングエコノミーの進展は遅々としているがそれでも大きな存在になっていきそうだ。株式会社情報通信総合研究所(東京・中央)と一般社団法人シェアリングエコノミー協会は市場全体を把握する初めての調査を9日、発表した。
 その詳細は下記アドレスにある発表資料を参考にしてもらいたいが、概要は以下の通りだ。
https://www.icr.co.jp/press/press20190409.pdf
 2018年度の市場規模(取引金額)は1兆8,874億円。現状ペースで成長すると2030年度には5兆7,589億円、現状のさまざまな課題が解決されれば11兆1,275億円になると予想している。
 この数値は取引額であり、シェアのプラットフォームの売上高ではない。
 ちなみにシェア・プラットフォームには、スペース(空間)の仲介の分野ではAirb&b(民泊)など、モノの売買やレンタルではメルカリ(中古品売買)など、移動手段ではウーバー(ライドシェア)など。スキルではランサーズやクラウドワークス(クラウドソーシング)、マネーの分野ではマクアケ(クラウドファンディング)などがある。
 この調査では、市場規模の成長ぶりは半端ないことが明らかになっているが、私が驚いた最大のことは「シェアサービスの提供者と利用者の幸福度がそうでない人々より、幸福度のスコアが高かった」ということである。昭和生まれ、昭和育ちの私にとっては衝撃というほどの変化が起きていることが推察できる。
 「自身」が所属する企業経由ではなくプラットフォーム経由で「自身」を社会に提供する、モノを所有せず利用する、という新しいワークスタイル、ライフスタイルの幸福度が従来のスタイルの幸福度を上回ったのである。
 アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は「私にとって企業というのは人類のもっとも偉大な発明の一つだ」と語っている(アラン・ケン・トーマス著「スティーブ・ジョブズ世界を変えた言葉」イースト・プレス 2011年発行)。 
 企業や企業経営者がいなければ、ビッグプロジェクトもなければマスプロダクトもないと思える。だがこの調査結果はそのような企業、さらにいえば企業の経営者にそっぽを向いている人々が多くなっていることを示唆しているように思える。
 人を大切にする経営学会は、企業は社員などの関係者の幸福を目的とすべきであり、企業は利益を目的とすべきではないと訴えてきた。ところが個人は幸福になる手段としてそうした企業以外の存在を発見したように見える。社会の目的が人々の幸福であれば、社会は幸福度の高い新しい働き方を支援することになろう。
 調査の会見では、「シェアワーカー」として、糸原絵里香さんが登壇した。https://lifeshiftjapan.jp/interview/4386/

 糸原さんは、臨床心理学を学ぶ大学院生だが、「シェア・プラットフォーム」でスキルなどを提供するだけで、生活ができるようになった、という。「これからどうするのか」「このままで不安はないか」聞いたところプラットフォームでは、「利用者の評価が積み重ねられそれがすべて公開されるので、社会の信頼が高まり将来のキャリアは広がる」と話してくれた。ちなみに糸原さんがスキルなどを提供するために主に利用しているプラットフォームは以下の通りとのことだ。
タイムチケットhttps://www.timeticket.jp/68270294
タスカジ https://taskaji.jp/user/profile/40803
Airbnb https://www.airbnb.jp/users/show/145137831
 この会見の司会をしていたシェアリングエコノミー協会事務局長の石山アンジュさんは2月に「シェアライフ」を発行した(発行元は株式会社クロスメディア・パブリッシング)。すでに販売部数は1万部を超えたとのことだった。
 そのシェアライフには冒頭から驚きの物語が飛び込んでくる。石山さんは「ともに暮らし、ともに働く 意識でつながる家族」というコンセプトの「Cift」というシェアハウスで暮らしている。0歳から60歳までの60人が一緒に「家族」をしている。メンバーは家を共有しており、全国どこへ行っても「ただいま」と言える場所がある~と記述している。家族的企業ではなく家族的コミュニティが形成され、仕事や生活を助け合って行っている
http://cift.co/
 厚労省は今、「シェアワーカー」などを含む「雇用類似の働き方」について検討をしている。検討内容は現在の労働法制の対象外の「雇用類似の働き方」の保護のあり方である。その検討会で12日に公表された調査によれば、「フリーランス」など個人で仕事を請け負う人の数は170万人にのぼる。今後、さらに増加していくことが予想される。現状は東京など大都市圏で広がっているスタイルだが、いずれ地方にも広がるだろう。
 シェアリングエコノミーが進展して企業ではなくコミュニティでのワークとライフに幸福を感じる個人が多くなる中、関係者の幸福を目的とする企業はどう振る舞うべきなのだろうか、どのような会社をいい会社とすべきなのだろうか。その答えはまだわからないが、これまでにない問題に直面しているようだ。
神原哲也(人を大切にする経営学会会員、中小企業診断士、認定経営革新等支援機関、日本記者クラブ会員)

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