人間とAIとの違い

 AI(Artificial Intelligence:人工知能)の進化は目覚ましく、近い将来には今ある仕事の多くをAIが担うようになると言われています。2015年には野村総合研究所と英国オックスフォード大学の共同研究の結果として、10~20 年後に日本の労働人口の49%が就いている職業はAIやロボット等によって代替可能になると発表されました。

 人間とAIとの違いは何なのか?
AIは、大量の既存情報からデータを抽出・分析して予測することを得意としており、芸術や哲学等の抽象的な概念を整理・創出する分野の作業には向いていません。

 Apple社のデバイスに搭載されているSiri(Speech Interpretation and Recognition Interface:発話解析・認識インターフェース)はAI技術を活用した身近なサービスの一つです。iPhoneにインストールされているSiriに質問をしてみました。
 「近くの美味しいラーメン屋さんを教えて」と「近くの美味しくないラーメン屋さんを教えて」という2つの質問に対して、Siriは全く同じラーメン屋さん数件のリストを提示しました。Siriは質問内容の全てを理解しているのではなく、「近く」「ラーメン屋」の単語からインターネット上で得られる情報の検索結果を提示しているらしいです。「美味しい」と「美味しくない」という似ていても真逆の意味は理解できないのです。また美味しくないお店が検索される頻度は非常に少ないこと、「美味しい」という客観的な数値化が難しい情報であることから適切な対応が難しいのかもしれません。「近くの安いラーメン屋さんを教えて」と「近くの高いラーメン屋さんを教えて」と質問すると、「安い」ラーメン屋さんに対しては先の「美味しい」・「美味しくない」に対する回答と同じ数件が提示され、「高い」ラーメン屋さんに対しては、何故か我が家からは遠いラーメン屋さん数件が提示されました。いずれも先のリストには含まれていないお店です。続けて、リストの1番目に提示されたラーメン屋さんについて「値段を教えて」と聞くと「安いとされています」と答えました。先の質問への回答と矛盾します。Siriは質問の意味や前後のつながりを理解していないのです。

 もう一つわかりやすい例としてYOLO (発音は“ヨロ”)というAI技術による物体検出手法を紹介します。2016年に発表された当時、それ以前の手法と比較して飛躍的に高速で正確な画像認識を可能にした技術として世界的に注目を浴びた技術です。
 以下のリンク(https://pjreddie.com/darknet/yolo/)から“YOLO v3”という動画を見て下さい。瞬時に大勢の人間(person)や車(car)を識別して、それぞれの数を認識できるという点では人間の能力をはるかに上回ります。他方、映像カウントの1分31秒から1分42秒にかけて出てくる鳥に注目すると、認識結果の表示は概ね「鳥(bird)」ですが、瞬間的に「犬(dog)」、「リュックサック(backpack)」、「野球用グローブ(baseball glove)」、「運動用ボール(sports ball)」と目まぐるしく変わります。AIは、異なる鳥の画像を見て全てに共通する鳥の形状的な特徴(羽・嘴がある等)をデータとして取り込むことで鳥を認識しています。鳥の画像データの蓄積が増えるほど認識の精度が上がります。映像中での鳥の見え方が、AIが過去に見た鳥の画像データから得た特徴と合致しないと誤った認識をします。
 カウント1分53秒から出てくるラクダ(camel)については、過去の学習データがないために馬(horse)または牛(cow)としか認識されていません。さらに、人間についてはおおざっぱな特徴しか捉えておらず、性別、年齢(高齢者・青年・子どもの違い等)、表情(笑顔なのか、悲しそうなのか等)の違いは認識していません。

 AIは既存のデータに基づく学習経験に頼って仕事をするので、過去に経験したことのない想定外の事態では適切な判断ができません。コンピューターによる計算結果によって仕事をしているので、応用や融通が利かないのです。
 やったことのない新しいことに挑戦すること、創造すること、相手の表情などから状況を判断して円滑なコミュニケーションを取ることなども、AIにはできないのです。こうした事実に基づいて、AIに代替できない職業として芸術家・音楽家(人に感動を与える創造力と独自性が必要)、保育士・精神科医・介護士(人の心と向き合う高いコミュニケーション力が必要)、美容師、デザイナー(美的センスが求められる)等があげられていますが、いい会社の経営者とその社員の仕事はAIには決してできないと思います。

人を大切にする経営学会人財塾生 松久 知美

【参考】
「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」新井紀子 東洋経済新報社 https://str.toyokeizai.net/books/9784492762394/?utm_campaign=MK%20mk_ex_strDAS&utm_source=adGoogle&utm_medium=cpc&gclid=Cj0KCQjw-O35BRDVARIsAJU5mQWNyDqMUNbf-N4ABNsjcQ6svXoOpV4gdd2eaH7yZqpXT8IzRMO2IY4aApmgEALw_wcB
日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~ 野村総合研究所 2015年12月2日 https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
人工知能(AI)とロボットの違いとは?組み合わせるメリットと将来の動向 パソナテック https://www.pasonatech.co.jp/workstyle/column/detail.html?p=2183
AIが絶対に人間を超えられない「根本的な理由」を知ってますか 現代ビジネス 講談社2018.07.17 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56564

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