解雇問題の現状

社員が解雇されたとき、争う方法は、3通りあります。

 一つ目が公的な機関である紛争調整委員会によるあっせん(斡旋)です。

 二つ目は、裁判所による労働審判です。そして、三つ目は、裁判所による普通の裁判です。

 一つ目のあっせんに、弁護士が代理人として参加することは稀であり、あっせんの場合の多くは解雇された本人が申立をしています。

 労働審判は、通常3回程度で終了し、できるだけ労使間で話し合いを求め、話し合いが成立しないと裁判官による審判が出される制度です。なお、この審判の結果に不満があれば、労使どちらとも普通の訴訟に移行させることがきでます。労働審判は、このように短期間で判断までなされるため、解雇された社員が解雇無効を争っても、多くは解決金を会社から社員に支払う方向で調整がなされます。審判まで行くと、解雇無効と判断されることもあります。

 一方で、普通の裁判では、多くの場合、解雇無効を求めます。その場合、裁判は長くかかるため、地位保全の仮処分といって、仮に社員の地位にあることを求める手続も一緒に行い、給与の仮払いを受けながら裁判を進めることになります。普通の裁判でも和解によって、金銭解決をする場合もありますが、不当解雇の場合に、判決で解雇無効で雇用継続が判断されることもあります。もっとも、解雇されて紛争にまでなった場合に、社員が会社に戻って仕事をし続けることはかなりの精神的な負担(本来は、あってはならないことですが)がかかってしまい、労働組合等、他の社員の応援がないと仕事を継続していくことが難しいのが実情だとも言えます。

 今回、7月23日付け日経新聞で、金銭解決する場合の基準値が出されました。

 あっせんの場合は、1.4ヶ月分、解決額の中央値は20万円

 労働審判の場合は、4.8ヶ月分、解決額の中央値は120万円

 裁判の和解の場合は、6.7ヶ月分、解決額の中央値は200万円

 もちろん、不当解雇の不当性によって増減がありますが、中央値という意味では、私ども感覚とあまり差はありません。

 しかし、これはあくまで金銭解決の場合であり、前述したように不当解雇であれば、判決で解雇無効となるケースは多々ありますので、社員の側が金銭解決を望まなければ、必ずしもこのような基準で解決ができるわけではありません。不当性が強く、社員が会社に残りたい意思が強ければ強いほど、仮に金銭解決をする場合でも、その金額は大きくなります。同日経新聞の記事にも紹介されていましたが、解決金1000万円の事例もあるようです。

 このように不当な解雇は金銭的にも会社に損失を与えます。不当な解雇は絶対にするべきではありません。これは経営者として当たり前の在り方です。

しかし、どうしても他の社員やお客様との関係で、解雇せざるを得ない、つまり解雇に合理的な理由がある場合であっても、適切な手続をしなければ、不当解雇として争いになることもあります。解雇の場合には、社員に対しても、会社にとっても慎重な対応が求められます。

(学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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