デジタル監視システムの問題

AIを使って膨大な電子データを分析するツールの活用が、東芝の株主総会運営を巡る問題調査で注目を集めています。このツールは、各社員がどんなサイトやデータファイルによくアクセスするかなど、ネット上での行動データを数ヶ月単位で蓄積し、通常の利用と異なる利用をすれば、それを瞬時に検知するものです。

 たとえば、ある社員が通常利用をしない社内の機密情報にアクセスしたような場合に情報担当部門に警告がいく仕組みです。私は利用をしたことがないので、詳細は分かりませんが、たぶんメールの内容もキーワード等で監視をし、一定のキーワード(社内の機密情報など)がメール中に出てくると、警告を発するような仕組みも可能なのだと思います。これらは、既に国レベルでは行われていることであり、某国内で海外にメールをしようとした場合に、あるワードが入ったメールは送信できないなどということが生じます。

 職場でパソコンを支給して、業務用のみに利用している場合に、このようなAIを利用して監視するということは、必ずしも法律的には問題があるとはいえないところだと思います。しかし、せめてそのようなことをする場合には、全社員のアナウンスをする必要があろうかと思います。その場合に、社員の心が離れていくことは覚悟しておいた方がいいでしょう。

 一方で、テレワーク等をしている場合で、パソコンが会社支給のものではなく、個人のパソコンを使用している場合には、仕事以外にもそのパソコンを使用しているはずです。そのパソコンに同様のツールを導入する場合は、法的にも問題となります。そもそもそのパソコンには仕事以外のプライベートな情報も入っており、場合によってはその情報までも収集するリスクがあります。このようなケースとなると、会社側が違法となる可能性もあります。少なくとも、個別の社員が自ら納得の上で同意してもらうことが必要です。

 大手企業で社員の人数が多い場合には、目が行き届かないこともあるかもしれません。しかし、このようなツールに頼ることなく、社員を信頼できるような企業でなければ、「人を大切にする」以前に、そもそも企業として成り立たないと思います。

 このようなシステムを提供している会社には申し訳ないですが、あまり広がらないことを望みます。

 (学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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