自由ではなく自立と自律

企業の成長には、エンパワーメントが必要だと言われます。エンパワーメントは、辞書では、「上に立つ者が下の者に権限を委譲することにより、従業員などの潜在能力を引き出し、組織を活性化すること」(新明解国語辞典)と書かれています。これを社員側からすると、この仕事について、「自由裁量」が与えられたと言ったりします。

 しかし、自由裁量というのは、一部の社員、特に社会経験の少ない社員に誤解をさせてしまう言葉だと思います。

 権限の委譲には、委譲する権限の枠があります。その枠をはみ出して自由に仕事をすることはできません。

 そこで、造語となってしまいますが、このような権限委譲は、「自立(自律)裁量」というのが適切だと思います。

 自立とは、文字通り、自分で立つ、ということを示します。辞書では、「他に依存することなく、自分自身の判断に基づいて責任を持った行動をすること」(新明解国語辞典)となります。自ら立っているのですから、転んで怪我をしてしまったら、それを誰の責任にもできません。転んで怪我をしてしまったことは、自分の責任なのです。他に依存しないとは、何かあっても誰の責任にもできず、自らの責任とすることを意味します。

 一方、自律とは、自分で律することです。自分で決めたルールに従うことになります。もっとも、このルールも勝手に決めることは出来ません。私たちの周りには様々なルールがあり、そのルールに従わなければならないからです。自分で決めたルールは、日本国民であれば、日本の法律、東京都在住であれば東京都条例、会社に入れば会社のルール(就業規則や暗黙のルールなど)、そして権限を委譲されたのであれば、その権限の枠内(これもルールです)をはみ出さないように決めなければなりません。

 このように見てくると、裁量とは、「自立(自律)裁量」であって、決して自由ではないことが判ります。この点を明確に伝えていかないと勘違いをした社員に育ててしまう可能性があると思うのです。

(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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