ココ・ファーム・ワイナリー

法政大大学院 坂本光司ゼミ 修士1年 投資家 根本幸治 

1950年代、当時の特殊学級の中学生たちとその担任教師(川田昇:1920年-2010年)によって
こころみ学園の葡萄畑が開墾されました。足利の北の山にあるこの葡萄畑は平均斜度38度の急斜面です。
なぜこんな山の奥に葡萄畑を開墾したのでしょう? 
それは、一介の教師には、平らな土地に農地を得ることができず、山奥の急斜面しかなかったからでした。

しかし、このこころみ学園の葡萄畑は、南西向きの急斜面であるため陽あたり良く、水はけ良く、
葡萄にとって良い条件です。また、この急斜面は葡萄の生育に良いだけでなく、
障害を持ってかわいそうと過保護にされ、あてにされることなかった子供たちにとっても、良い環境でした。

最も大変なのは急斜面での草刈りです。除草剤を撒いてしまうと、子供たちの仕事がなくなるので、
この葡萄畑は開墾以来50数年間、除草剤を一切撒いたことがありません。
除草剤を一切撒かない葡萄畑には、いろいろな草花がしげってきます。
すると、その草花にたくさんの虫が寄ってきます。
たくさんの虫が寄ってくると、その虫を求めてたくさんの鳥たちがやってきます。
するとまたその鳥を追い払うために、朝から晩までカンをたたくという仕事が必要になります。
こうして365日やってもやってもやり尽くせない仕事を用意することができました。

知恵が遅れているから何もできないと思われ、何もやらせてもらえなかった柔らかい少年たちの手は、
毎日葡萄畑にいるうちに、たくましい関節のある農夫の手になっていきました。
都会の自宅で、夜中にあばれて、家のガラス戸を全部割ってしまったという少年が、
この急斜面をみんなについて登って降りてしていくうちに、お腹がすいて食事を摂り、ぐっすり眠る。
この山の急斜面は、葡萄のためだけでなく、知的な障害のせいで自分自身をコントロールできない
子供たちが、心身を安定させていくためにかけがえのない役割を果たしてきました。

またこの急斜面には車両や大型機械が入りませんから、何でも人間の手でやらなければなりません。
自然派と呼ばれるワインづくりの人たちは「葡萄畑の一番いい肥料は農夫の足音だ」と言っています。
重い車両や機械はその重みで土を固く踏み固めてしまい、水や空気の通り道をつぶしてしまうのです。
ここの農夫たちは葡萄畑の虫をひとつひとつつまんで取り除いたり、病気になってしまった葉っぱや粒を
一枚一枚丁寧に拭いたり取り除いたり、また、葡萄の一房一房に笠をかけたり・・・。

急斜面のため人間の手でやるしかないこつこつとした農作業が、
上質なワインを生み出す手がかりになっているのかも知れません。

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