「5方良し」
ネットで師匠、法政大学大学院 坂本 光司先生の記事にあたった。
1.最近、「5方良し」と言われることがある。
5人を確認して欲しい。
2.中小企業診断士に「人」に焦点を当てた取組みや指導をされてはいかがでしょうか。
士業全体に言えるし、経営者にも「人」に焦点をあてること。
先月19日に名古屋市で開催された「人を大切にする経営学会」中部支部設立フォーラムに私が4年前の定年退職までお世話になったTKCの会員先生も何人かお越しいただいた。
嬉しかったが、関与先・顧問先の親身の相談相手をされているので、「経営の目的は関連する全ての人々の実現を追求すること」でヒントを得たと思う顔をされていたことも嬉しかった。
*最近は8000社と話されている。
今日も、午後から荒川区の「日興エボサイト」さんを教授と数名のゼミ生で視察させていただく。
*山本さんも素晴らしい士だ。
特集:“ 日本でいちばん大切にしたい会社”にとっての「見える化」
第2 章
大切にしたい会社の原点とは
―坂本光司教授を取材して
山本 倫寛
東京都中小企業診断士協会城西支部
法政大学大学院政策創造研究科教授,同大学院静岡サテライトキャンパス長。1947年静岡県出身,1970年法政大学経営学部卒業。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授などを経て現職。人を大切にする経営学会会長など公務多数。主な著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版),『モノづくりで幸せになれる会社となれない会社』(日刊工業新聞社),『「日本でいちばん大切にしたい会社」がわかる100の指標』(朝日新聞出版),『逆風を追い風に変えた企業』(静岡新聞社),『人に喜ばれる仕事をしよう』(WAVE出版)など。中小企業経営研究の第一人者として,これまでに7,500社を超える企業への訪問調査・アドバイスを行う。
法政大学大学院政策創造研究科教授・坂本光司(さかもとこうじ)氏に聞く
企業診断ニュース 2016.3 7
第2 章 大切にしたい会社の原点とは
山本:私たちが研究したテーマの1 つに「江戸CSR」があります。江戸時代において,すでにCSR が存在していたのですが,先生のお考えもCSR につながるのではないでしょうか。
日本にはせっかく素晴らしい思想があったにもかかわらず,最近の日本における経営者の考えは,欧米の経営方針が前面に出て,一番重要なのは株主や出資者であって,短期的業績を重要視しているように思われます。
坂本:まさにそのとおりです。江戸時代における近江商人の「三方よし」という素晴らしい経営思想があったにもかかわらず,現在の多くの企業はせっかくの伝統的な日本の経営思想から外れてしまっているようです。
「三方よし」をもう一歩進め,先に挙げた大切にすべき人たちを称した「五方よし」を,経営者は目指すべきではないでしょうか。
この「五方よし」の順番も重要です。社員とその家族,社外社員とその家族,顧客,地域社会・地域住民を大切にすることを意識すれば,株主・出資者への貢献は自然についてきます。株主・出資者ありきではないのです。
経営者には,これらの大切にすべき人たちの順番も認識してほしいものです。
2 .障がい者雇用に真摯に向き合う
山本:私が先生の著書を読んで真っ先に感動したのが,『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)でご紹介された日本理化学工業株式会社のエピソードです。
知的障がい者雇用の比率が非常に高い会社ですが,この取組みのきっかけが社員からの要請であったことにも感激しました。
坂本:私がその書籍を書いたのは,日本理化学工業の現実を知ったことがきっかけです。
この会社における障がい者雇用は,平成24年時点でも全社員73名中54名が知的障がい者で,重度障がい者を勘案すると法定障がい者雇用率は約110%です。
山本:2013年4 月1 日より従業員50人以上の会社は,法定障がい者雇用率を2.0%以上にしなければならず,もしこれをクリアしていなければ,不足する人数に応じて納付金を徴収する制度に改定されました。
このような中,「納付金さえ払っておけばよし」とする会社が非常に多いのではないでしょうか。
坂本:そのとおりです。そもそも,この制度の意図するところを理解していない経営者が多すぎます。
障がい者の皆様は社会的弱者です。このような方々が日本にどれだけおられるか,
ご存じですか。何と日本人の約1 割が障がい者なのです。
「単純に納付金さえ払っておけばよし」ではなく,この現実を見極め,社会の公器である会社を経営する者として真摯に向き合うことが重要ではないでしょうか。
そして,障がい者雇用に際しては,現状の業務に障がい者が就けるように育成するのではなく,障がい者の方々がこなすことができる業務を作ってあげることが重要です。
それにより,障がい者の方々が健常者以上に一生懸命働く姿を見て,健常者従業員のモチベーションをより一層高める効果も期待できます。
山本:ところで,先生は日本全国津々浦々まで実際に足を運ばれ,数多くの会社をヒアリングのうえ,研究をされていますが,それらの会社にアドバイスなどをされているのでしょうか。
坂本:「大切にしたい会社」をより多く輩出したいとの思いで,改善指導を無料でしています。
そして,約7,500社もの会社を訪問してきた蓄積がありますので,その会社の実態はひと目でわかります。
しかしながら,指導をしても実践しない評論家的な経営者が多すぎるのが実態です。
もちろん,素晴らしい経営者も多々おられます。素晴らしい経営者かどうかは,「徳があるかどうか」ではないでしょうか。
「利他」の心が大切だと考えます。
特集
3 .「企業の見える化」
山本:私どもは「企業の見える化」を研究しています。「見える化」という観点から,先生のお考えをお聞かせください。
坂本:まずは,経営者から従業員への「見える化」としては,経営理念をしっかり作り上げて,それを従業員に示すとともに,理解させることが重要です。
そのためには,たとえば朝礼の際に自分の考えを定期的に従業員に伝えるなどの方法があります。
また,従業員に配布する手帳に社是を記載し,常日頃持ち歩いてもらい,手帳を開くたびに社是を読んでもらっている会社もありますが,非常に有効な手段です。
そして,経営理念を浸透させるには,やはり時間がかかることを経営者自身が認識しておくことが必要です。
一方で勘違いをしてはならないのは,経営者や管理者が重要なことを従業員に知らせず,会社が存続しているのは自分たちのおかげだという意識を持ってしまうことです。
これを避けるために,会社の状況を「超ガラス張り」にする方法があります。
それは,可能な限り文書化・数値化することです。
たとえば,月次決算の内容を全従業員に開示し,現状の会社の状況を常に知っておいてもらうことは,従業員の会社への帰属意識を高め,モチベーションを上げる一助となります。
また,経営者の行動を常に明らかにしておくことも重要です。
たとえば,社内の誰でも見られる掲示板に,その日の経営者の行動・スケジュールを記載しておくのも非常に有効です。
逆にこのようなことをしない経営者に対しては,従業員から「今日もゴルフに行っているのではなかろうか」などの疑心を持たれ,社内のモチベーションダウンにつながることもあり得ます。
私もゼミの生徒に自分のスケジュールをブログで公開しています。
山本:それでは逆に,従業員から経営者への「見える化」という観点からはいかがでしょうか。
たとえば,日本理化学工業では,当時専務であった大山泰弘氏に,特別支援学校の先生から卒業する2 名の生徒の就職依頼をされ,「当社の現状では厳しい」と何度も断った後に,短期間の就業経験という条件で受け入れて働いてもらったところ,当時の従業員15人の総意で,正社員として採用してほしいとの申し出があり,その結果,この2 名は正社員として採用されたとのエピソードがありました。
このことは,従業員側から経営者への「見える化」行動にあてはまると言えるのではないでしょうか。
坂本:そうですね。ほかにも考えられるのは,たとえば,従業員から従業員への「ありがとうカード」の手渡しや,お客様から従業員への「サンキューレター」をいただけるような仕組みを会社として作り上げるのも,1つの方法ではないでしょうか。
また,朝礼の主体を従業員にして,たとえば,この1 ヵ月で自ら読んで一番良かった書籍の内容・感想などを披露することも,従業員からの「見える化」となるのではないでしょうか。
4 .「大切にしたい会社」の海外展開
山本:日本国内における先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」活動および,その大賞という企画は素晴らしいです。
ところで,この活動や企画を海外展開するお考えをお持ちでしょうか。
坂本:そうですね。その考えは大いにあります。実は私の書籍は,中国語・韓国語・英語にも翻訳されたうえで出版されています。
そしてたとえば,韓国最大の企業であるサムスン電子のスタッフの方々の取材を受けたこともあります。
中小企業ではない超大手企業,しかも海外の企業が訪問してくれたのです。
第2 章 大切にしたい会社の原点とは
山本:その際には,どのようなお話をされたのでしょうか。
坂本:さまざまな質問を受けましたが,その中でも特に日本企業に重要と思われるものは,「素晴らしい経営モデルと言われた日本の著名な大企業の経営は,近年おかしくなってしまったのでしょうか」,そして,「サムスン電子が将来そうならないためには,どのような点に留意して今後の経営を考え,進めていけばよいと考えますか」といった内容です。
それに対し,私は「いちばん大切にするべきことを,いちばん大切にし続けること」が最重要とお答えしました。
具体的には,先に述べた大切にすべき人たち,そしてその順番です。また,中国の北京からも訪問があり,講演依頼も受けました。
山本:私は商社マンとして約14年間の中国駐在経験がありますが,現地で独立された中小企業製造業の日本人経営者で,非常に印象に残っている方がいます。
その方は,設立されて間もない苦しい経営状態の中,報酬はある程度抑えざるを得ないけれども,リストラは絶対にしないという信念を貫き通されました。
その一方で,従業員の方々が楽しみにしている昼食に対する期待に応えるべく,社員食堂を作り,おいしい食事を楽しんでもらえるように優秀なコックを雇用するとともに,特にお米の質にこだわるというきめ細やかな配慮をされたのです。私もその工場食を何度かいただきましたが,従業員の皆様とともにする食事のおいしさ,幸せなひとときを,いまだに覚えています。
坂本:そうですね。海外の経営者においても,まずは従業員およびその家族を大切にすることがもっとも重要であり,それをどのようにして実行するかということが,経営者としての能力の1つと言えるのではないでしょうか。
私も海外においても同様の活動を展開したいと考えているのですが,協力者が必要です。
5 .中小企業診断士に望むこと
山本:最後になりましたが,先生から中小企業診断士に,エールのお言葉をいただければ幸甚です。
坂本:私も旧制度での中小企業診断士でした。中小企業大学校での講師も30年間やりました。また,私のゼミの生徒は2 割が中小企業診断士・公認会計士・税理士などの士業,残り8 割が中小企業の社長という構成です。
このような経緯もあり,中小企業診断士の皆様には大いなる期待を寄せています。そのような中,MBA 取得者や中小企業診断士の皆様は,「経営」指導という観点が主体となっているように思われます。これも非常に重要ですが,それ以上に「人」に焦点を当てた取組みや指導をされてはいかがでしょうか。
中小企業診断士の皆様のさらなるご活躍を期待いたします。
山本:ありがとうございました。引き続きのご指導・ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
6 .取材を終えて
坂本教授の「真に良い会社」をより多く増やしていきたいという熱い思いを強く感じました。
人財を大切にすることの重要性,そして,その観点からの経営指導をしたいという意欲がますます強まるとともに,勇気をいただきました。
山本 倫寛(やまもと ともひろ)
錦帯橋で有名な山口県岩国市生まれ。早稲田大学法学部卒業後,総合商社に入社,
現在はプラスチック専門商社に勤務。全般的な経営管理に携わる。また,商社マンとして通算17年間の海外駐在経験を活かし,国際派中小企業診断士を目指す。共著に『ふぞろいな中小企業診断士』(同友館)。
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