大切なことを改めて気づかせてくれた一本の電話
見慣れない着信の携帯番号がディスプレイに表示された。
受話器を取る。
「小林先生の携帯ですか」
私「はい、そうです。」
「随分以前にお会いしたことがあるという〇〇さんからご紹介いただきご連絡しました。実は社会保険労務士の先生を探していまして・・・」
私「そうですか、それはわざわざご連絡ありがとうございます。」
相手はいきなり要件に入った。
「サービス残業の請求の協力をしていただけませんか?どのくらいのフィーで請けていただけますか?」
私「会社をお辞めになって、その会社に未払いの残業代の請求をしたいということですか?」
「いえ、そうではなくて弁護士が社会保険労務士を探しているんです。」
その弁護士は企業に対して不当労働行為などについて労働者の代理人をよくしているということだった。
そして、たくさんの案件をこなしているが、実際にサービス残業代を請求しようと行動する相談者がなかなかいないので社会保険労務士をパートナーにしてサービス残業代の取り立て業務のアウトソース先を探しているのだという。
私「せっかくご連絡をいただきましたが、私どもは経営方針として個別労働紛争処理の仕事はしないことにしていまして・・・」
「あ、先生は企業側についている社会保険労務士なのですか?
そういう社会保険労務士は引き受けないかもしれないと弁護士が言ってましたけど。」
私「いや、企業側とか労働者側とか、そういうことではなくて労働紛争が決して起きないような健全な職場づくりに貢献することが社会保険労務士の使命だと思って仕事をしているのです。いい社風の会社をつくれば社員のモチベーションも高まり、業績もよくなって経営者にとっても社員にとってもハッピーになれますから・・・」
「???」
相手はこちらの言っていることが呑み込めていない様子だった。
せっかく仕事があるというのになぜ断るのか疑問そうだったが、再度、丁重にお断りをして電話を切った。
自分の理想とする仕事をしないで目の前に来た仕事に対応していてはいつまでたっても理想には届かないことになる。時間は限られているから、どんな仕事をしていくかという選択はとても大事なことだと思う。
特定社会保険労務士という労働紛争のあっせん代理業が出来る法改正があって8年。社会保険労務士がさらに試験を受けて合格すると「特定」となる。
ものすごく違和感があったから、自分はこんな資格はいらないと受験したこともないし、これからもするつもりもない。
当時から懸念していた。いつか社会保険労務士同士がやり合う時代がくるのではないかと・・・。
サービス残業は2年間分は時効にかからず請求できるから百万円以上の請求額になることもある。成功報酬にしたらそれなりの実入りなる。
目先のカネ目当てに、企業に取り立てる社会保険労務士が増えているのかもしれないと感じさせる出来事だった。
われわれは弁護士ではない。
私はこれからも社会保険労務士の仕事の本質を見失わずに進んでいきたいと改めて思った。
「社員に笑顔を 会社に輝きを」
この理念をもてて、今、経営出来ていることに本当によかったと心から感謝したい。
小林秀司
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