リアル小説「鍵のありか」~IT屋のトラブル対応はいつもこんな感じ~

※今回は趣向を変え小説風にしてみました。一部脚色あり、フィクション・ノンフィクション混在です。^^

 5月にしては暑い日だった。
まもなく午後になろうという頃、携帯が鳴った。
「ログインできなくなっちゃたんです。どうしよう。」
坂本研究室ブログ当番の一人から依頼の電話だった。とても困惑している様子が伝わってくる。
「わかりました、調べてなんとかしますよ。大丈夫です。」

私はこのとき、すぐに解決できるものだと思い込んでいた。
「さっと片付けたら昼飯は何か美味いもんでも食おう。」
そうつぶやきながら、ブログのログイン画面から『ID/パスワードを忘れた?』をクリック、IDにメールを送信…のところでふと気づいた。

「このメールアドレスは誰が管理しているのだろう?」
そう、そのメールを受信して読めなければ先に進めないのだ。

 坂本研究室のブログは2008年から脈々と毎日続けられていると聞く。立ち上げたのはきっと修了し卒業していった先輩だろう。

「Tに訊けばわかるだろう。なにしろ修士5年、現役M5だからな。わっはっは。」
このときはまだ気楽なものだった。

携帯で検索し通話ボタンを押す。
1回、2回、コールは鳴るが出る気配が無い。
5回…まあ折り返してくれるだろう。そう思いながらも、ちょっと面倒なことになってきたなと思い始めていた。

「立ち上げたのはブログの1番最初の投稿者になっているはずだ。」

しばらく悩んで思いが至った。考えてみれば単純なことだ。
カレンダーを使っても一番はじめの記事までたどり着くのが大変だったが、途中でアーカイブのURLに年月の文字列が含まれていることに気づき、2013年から一気に2008年へ飛んだ。

一番始めに投稿された記事には(N)とあった。
「そうか。」
たしか1、2週間前に偶然会った修了生から、研究室ブログの管理の件で相談したいと言われていたのを思い出したのだ。世の中は良く出来ている。そのときすぐに対応しなかったことが少し悔やまれた。

Facebookを開きメッセージで状況を伝えた。ブログの方ではなく、ブログIDに使っているメールの管理を一時的にこちらに任せてほしいという内容だ。

すぐに返信があった。状況の説明や確認のために何度かのやりとりをくりかえし、最終的にはメールのIDとパスワードを知らせてもらった。
「Nさんがオンラインで良かった…。」

携帯が鳴った。
「ああ、Tだけど、なんだった?」
M5のTだ。状況を軽く話し、立ち上げたのはNさんでいまFacebookメッセージでやりとり中だと言うと、
「ああ、そうだよ。パスワードリセットすればいいよね。」
「そうだね。ありがと。」
と、ここまでの苦労を伝えるのも面倒になり、連絡をくれた礼を伝えて切った。

「使えないやつだ。」
吐き捨てながら、すぐにログインして調べていくと、こともあろうかメールボックスが消えているのを発見した。この事件の最初の頃、ブログのログインIDにもなっているこのメールアドレスに試しにメールを送り、送信エラーで帰ってきたのを覚えていたのが功を奏した。

ヘルプに、6ヶ月以上使っていないとメールボックスが削除されます。とある。無管理状態が生み出した問題だったのだ。

この程度のトラブルには慣れている。焦ることなく冷静にメールボックス復旧の手続きを進めた。復旧したメールボックスは空だった。しかし、嫌な予感が頭をもたげはじめているのを振り払うことはできなかった。

メールボックスを手に入れた私は、ブログのログイン画面から、IDパスワード忘れの申請を行った。パスワード更新のメールは空のメールボックスにすぐに届いた。
「ふん、これで解決だな。」

慣れた手つきでパスワード更新の手続きを進める。
「よし、これでおわりだ!」
IDとパスワードを入力し、ログインボタンをクリックした。

『ログインエラー』
愛用のノートPC画面には非情のメッセージが赤く光っていた。

少し焦り始めていた。12時はとうに回っている。
IDパスワード忘れ申請、パスワード更新、ログインのトライを何度も何度も繰り返す。パスワードをあれこれと変えてみても同じだった。

トライにも疲れ、ふとヘルプページを見てみると『アカウントロック』の文字が目に入った。アカウントロックとは、パスワードを何回も間違えるとログイン停止されることだ。
「こ、これだ!」

説明を読んでいくと、アカウントロックされたときに解除の手続きメールを送ってありますとある。送り先は、回復させたばかりの空っぽのメールボックスだ。届いているはずが無い。

「これはヤバイかもしれない…。」

坂本ゼミブログ継続の危機がリアルになってきた。
時刻は15:00になろうかというころ。
焦りと空腹が私を襲っていた。

(たぶん続かない)

by 竜

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「リアル小説「鍵のありか」~IT屋のトラブル対応はいつもこんな感じ~」への1件のフィードバック

  1. 井上さん
    こんにちは!
    ご苦労様でした・・・・・。
    当事者として色んなご苦労があったのですね。
    復旧して本当に良かったです。