今朝の東京(中日)新聞系列の社説です。
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凄い記者がいることを感謝します。
さよなら「価格競争」経営 週のはじめに考える
デフレが勢いを増しています。消費者には値段が下がるのはもちろん助かります。でも価格競争は結局、誰かの犠牲のうえに成り立っているのです。
「乾いたタオルをさらに絞るようにして価格を下げている。利益を出すため従業員を削れるだけ削り、長時間労働でしのいでいる」
「今年は何とか受注できても来年はライバルがもっと値を下げてくるだろう。天秤(てんびん)にかけられる見積もり競争は無間地獄のようだ」
価格競争が激しさを増す外食やサービス産業で、また日本企業の大半を占める中小企業で痛切な叫びが聞かれます。
8割以上が消耗戦に
それもそのはずです。「人を大切にする経営学会」(代表・坂本光司法政大大学院教授)が一月に全国の中小企業千社にアンケートした結果、八割以上が「価格が競争力の源泉」と答えた。つまり値下げ競争に活路を求めている。「しかし常に他社の動向に神経をとがらせ、悩み苦しむ。そんな日本企業に明日はありません」。価格競争との決別を近著で訴えた坂本教授は、そう指摘します。
なぜか。日本の人件費は上海やバンコクなどアジア勢の約十倍(日本貿易振興機構調べ)と埋めがたい劣勢にある。さらにアジア勢の技術や開発力の伸びは著しい。テレビやパソコンが席巻されたように、従来の経営では対抗できないのが現状です。
それでも価格競争に走る。その先に何があるのでしょう。
価格競争力を高めるために「社員は少なく、給料は安く」といったリストラが横行、非正規社員を増やす経営に頼ることにもなる。
誰でも名前を知っている大手上場企業が日常的に行っているのは「いかに安く仕入れるか」。多くの中小企業を天秤にかけ、引き下げ競争を強いる。価格競争型経営は社員や取引先、時に消費者をも巻き込み、誰かを犠牲や不幸にしてしまうのです。
徹底的にこだわりを
ではどうしたら良いか。例えば自社しかできない価値ある商品を提供する「オンリーワン経営」や、顧客のあらゆるニーズをすくい取る「こだわり経営」。もちろん品質を極め、他を寄せ付けない「ナンバーワン経営」もある。
東京・鷺ノ宮にある美容室「トランスフォーム」は洗髪に使う水からこだわり、パーマ剤類はすべてオーガニック製品に替え、安心・安全を売り物にしている。顧客の平均単価は一万四千円。近隣の相場といわれる七千円の二倍も高く、安売り店が増える中では時代に逆行するようなやり方でした。
それでも予約が取りにくい人気に。富裕層相手というぜいたくさではなく、ここでしか味わえない安心感や心地よさからです。経営する酒巻大智さん(43)は、業界で働き始めたての頃、原因不明のせきや胸の痛みに悩まされた経験がありました。
「自分が不安に思う環境をお客さまに強いたくなかった。紆余(うよ)曲折はあったが決断してからすべてがうまく回った」。顧客の満足度が高まり、経営も安定した。低賃金・長時間労働で美容師離れが悩みの業界にあって、従業員の労働条件も改善できたといいます。
もう一つ、例を挙げましょう。静岡市に本社がある「サンファーマーズ」が手がけるブランド品「アメーラ」。高糖度トマトの代名詞といわれ、百貨店や飲食店で引っ張りだこです。
一般的なトマトの二倍の甘さ。一個一個の糖度保証をはじめ、形や大きさ、キズの有無といった品質管理を徹底して「食べた人に感動を与えること間違いなし」との評価を確立した。
何よりすごいのは、この安定した高品質品を年間を通じ途切れることなく供給する効率生産です。当時、種苗会社を経営していた稲吉正博社長(63)は、県農業試験場の職員らの協力を得ながら栽培技術を確立し、不況や需要先細りをも恐れないブランド品を築き上げました。
アメーラの成功は、一人で悩むのではなく専門家や行政に助言を求めることも一つの手段と教えてくれます。
健全な経済築くには
所得がなかなか増えない中で安売りが助かると思うのは消費者の普通の感覚かもしれません。でも、だからといって経営者が価格競争ばかりに向かうのは、やはり間違っている。
日本企業は約七割が赤字です。赤字企業は法人税を納めず、それは税収を大きく落ち込ませているのです。良い物をつくり、適正な価格で利益を上げ、税も納め、従業員に十分な賃金を払う。税収が増えれば値上げの痛みを和らげる使い方もできるはずです。
健全な経済を築いていくのは、もちろん健全な経営の集積なのではないでしょうか。
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