危機の時に問われる経営力とは~八木澤商店の物語から

 坂本ゼミでは毎回、研究対象となる企業を坂本先生がリストアップしてゼミ生に提示します。私にとって最初のゼミの4月8日のリストには、福島県の東邦銀行や岩手県の八木澤商店がありました。2011年3月11日の東日本大震災発災後の企業行動が輝いていた企業です。
 陸前高田市の老舗(1807年創業)、八木澤商店については、竹内早希子さんが2016年10月に『奇跡の醤(ひしお)』(祥伝社)=写真=を出版しました。八木澤商店は東日本大震災で、蔵付きの微生物が棲む土蔵や杉桶、さらにもろみを津波で失いました。この本はその再建の苦闘を描いています。
 八木澤商店は、資産のほとんど、金額換算で2億円をなくしたのです。残ったのは、自宅を失ったり、肉親が見つからなかったりで、絶望していた社員37人だけでした。BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)だけで判断すれば、自己破産して従業員を解雇するのが合理的でしょう。
 しかし、後継者の河野通洋さんは、「絶対、再建する」ことを社員に約束、4月1日に9代目社長に就任し、新入社員を含む全員の雇用維持を約束します。その時点では醤油の命である「もろみ」はない、取引先の70%を占める地元の水産加工業者も壊滅状態、再建のめどがあるはずありません。
 それでは、醤油工場や伝統の味の醤油を復活できたのはなぜでしょうか。私はトップの決意とその決意に対する関係者の支援の賜物だと、私は察します。
 地元の岩手銀行支店長は、避難所に通洋さんを尋ね「地元企業は一社も潰しません。私たちが全面的にバックアップします。廃業しようとしている会社があったら、私たちに連絡して下さい」と言って、借入金返済凍結を約束してくれた、そうです。
 全国の取引先、地元の中小企業家同友会、八木澤商店の醤油のファンが同社再建の支援に動きました。同業の支援については、市場競争をビジネスの基本として信奉する米ハーバードビジネススクールの学生らが驚愕した、と言うことです。
 再建にとって何よりも大きかったのは、クラウンドファウンディング。具体的にはミュージックセキュリティーズ株式会社の被災地応援ファンドです。インターネットを活用、個人が1万円から被災地の事業者に応援できる仕組みです。
 ファンドのホームページを見ますと、八木澤商店の工場建設資金は総額1億5,000万円。従来の県の補助金や金融機関の融資だけでは資金が不足する中、ファンドによる個人の支援が加わり、再建ができたことがわかります。
 それではなぜトップの決意や関係者の支援が生まれたのでしょうか。祖父の通義さんは、高田を工業都市にするため岩手県が計画した広田湾埋め立てに反対する会の会長に就任、自然の海「高田の青」を守った人、父の和義さんは、日本の醤油の原料のほとんどが脱脂大豆となる中、昔ながらに丸大豆を原料にした醤油「生揚醤油」を作り、1升3000円で商品化した人、それぞれ時流に流されず、正しいと信じたことに果敢に取り組み、多くの人から熱烈な支持を得てきたようです。
 著者の竹内さんは「八木澤商店はなぜ200年以上続いてきたのだろう。地域の人たちと支え合ってきたからではないか。自分の利益だけを考え、人々から愛されないならピンチがあっても助けてもらえずとっくに潰れていたに違いない」と記述しています。私はこれに加え、テレビやインターネットにより、同社のいわば「徳」は日本中に届くようになり、その結果、とてつもない危機も乗り越えることができたのではないでしょうか。
 テレビ東京のガイアの夜明けは4月25日、熊本震災からの復活に挑む「阿蘇プラザホテル」や「阿部牧場」などの物語を放送していました。逆境の中で、復活できるかどうか、問われる経営力とは何でしょうか。八木澤商店の物語は、代々が「徳」を積み、危機に臨んでその徳を発揮することだと語っているように思えました。 
                                          坂本ゼミ研究生(中小企業診断士) 神原哲也

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