患者寄り添い難手術 藤田保健衛生大教授の加藤庸子さん(中部ひと模様)

昨日の日経名古屋本社版夕刊。
女医が取り上げられるのは珍しいが、名医の共通点は男女とも変わらない。

患者寄り添い難手術 藤田保健衛生大教授の加藤庸子さん(中部ひと模様)

2017/8/12 14:00日本経済新聞 電子版

執刀2000件、脳出血防ぐ

 脳の動脈がコブ状に膨らんだ「脳動脈瘤(りゅう)」は、破裂すればくも膜下出血を引き起こす。
命にかかわり、重い後遺症が残る場合もある。
その予防のためコブの根元を閉じ、血が流れ込まないようにする「クリッピング術」の専門家だ。
これまで手掛けた手術は2000件。全国でもトップクラスの実績だ。

藤田保健衛生大脳神経外科教授の加藤庸子さん(64)

 手術は5、6時間を要する。頭蓋骨を開き、顕微鏡で患部を30倍に拡大してコブをクリップで留める。
脳内は複雑に血管が行き交う。わずかなミスが命取りだ。
「解剖図や録画で勉強するだけでは、脳の手術は身につかない」。
数々の症例と向き合い、その手にノウハウを蓄積してきた。

 心臓外科医の父の姿を見て育ち、自身も医師を志した。
今では医学部入学の3分の1が女性だが、当時は同級生100人のうち、8人だけだった。

 脳という人が触れられない領域への関心と、外科医への憧れが脳外科に進ませた。
ただ外科の女医は数少ない。「女性の執刀は頼りない。代えてくれ」。こう言われることもあった。

 それでもめげなかった。「私に受け持たせてください」。
研修医時代から、救急搬送などがあれば積極的に手を挙げ、難しい手術にも取り組み経験を積んだ。
実績が評価され、2006年に藤田保健衛生大(愛知県豊明市)の脳神経外科教授に。
13年には日本脳神経外科学会で女性で初めての理事となった。

 磨いたのは技量だけではない。朝7時前には病院に赴き、入院患者と体操をともにする。
回復の度合いや症状の変化を把握し、患者の日常に目を配るためだ。

 名刺には携帯電話の番号を記す。
「次はいつ診察に行けばいいですか?」「手術後に温泉旅行をしたいのですが」。
ひっきりなしに相談が入る。心に寄り添った医療と高い技術を求め、患者は全国から来院する。

 脳動脈瘤には開頭しない治療法もあり、クリッピング術に踏み切るかどうか悩む人は多い。
リスクを含めて説明するが、必要と判断すれば「手術した方がいい」とはっきり伝える。
専門家として、患者に委ねすぎずに方向性を明示すべきだと考えるからだ。

 気がかりなのは、外科を選ぶ若手が減っていること。
手術は合併症などリスクを伴い、昼夜分かたず執刀する場合もある。
それでも「若い人にはもっと食らいついてほしい」と思う。

 胸に刻む恩師の言葉がある。「患者が診察室の扉を開け、座るまでにどこに病因があるか見抜け」。
的確な診療は種々のデータだけでなく、姿や声につぶさに目を向けてこそ。その姿勢はずっと変わらない。

■途上国に技術伝承も
 1952年愛知県生まれ。愛知医科大医学部を卒業し、名古屋保健衛生大(現藤田保健衛生大)で研修医に。85年に脳神経外科認定医を取得した。
 現在は同大学教授として、坂文種報徳会病院(ばんたね病院、名古屋市)に勤務する。中央アジアやアフリカなど途上国で医療技術の伝承も担う。
 母と愛犬「デリー」と暮らす。「子供の頃、夏は水練学校で真っ黒になるまで泳いでいた」といい、今もドライブは海に向かう。

文・松尾洋平 写真・今井拓也

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