「世界一社風のいい会社」を目指す、株式会社ISOWAを視察して

 7月17日、学会の第9回優良企業研究・見学会で、愛知県春日井市の「株式会社ISOWA」を訪問しました。
同社は、1920年(大正9年)創業、現在の主要事業は、段ボール製造機械の設計・製造・販売。従業員280名(すべて正社員)、売上高95億円、代表取締役社長は磯輪英之氏です。今年3月、第8回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で審査委員会特別賞を受賞しています。その授賞式で磯輪社長の、「ISOWAは世界一社風のいい会社を目指しています」という言葉が深く印象に残り、機会があれば私もぜひ訪問したい、と思っていた企業です。

 まず、「ディスカバーISOWAツアー」と題された工場視察では、案内する社員さんが、仕事内容や工程よりも、仕事・会社・人生について自らの想いを話す「自分語り」と言われるスタイルでプレゼンします。若い社員さん達の等身大で外連味のない「自分語り」に、過去の企業視察では経験したことのない、ある種の「爽やかさ」を感じました。また同社が世界に誇る、1分250個の段ボール箱を製造できる製函機(全長数10m)の実演もありました。

 続いて磯輪社長の講演です。
磯輪社長は商社勤務を経て1985年30歳で同社に入社されました。入社当時、社員は「見ざる・言わざる・聞くけれど必要なことしかやらない」状態で、自分の心も方針も社員に届かずいつも空回り。社員が次第に「嫌い」になっていったそうです。その当時、自分は「氷山モデル」だったと言います。これは企業を氷山に例えた表現で、水面上の目に見える部分(企業の制度・しくみ)は1割くらい、あと9割は水面下で見えません。当時は、水面上の制度・しくみばかり、他社の成功事例や一時の流行施策を取り入れ、試行錯誤を繰り返していたそうです。しかし水面下の巨大な部分、これが企業では「風土・体質」にあたります。成功するのは、この巨大な水面下がしっかりしているからだ、と気付きました。その後、風土改革を目指して、様々な方法を試みます。

 特に印象に残った話をご紹介します。

・自由にモノが言える環境を作りたい。私(社長)自身が仕組めばヤラセになる。そこで、私が関与しないところで言いたいことを言えるような仕掛けを作った。意外に多くの社員が集まったが、最初は不平不満ばかり。次第に文句も言い疲れ、「会社は頼りにならないから、自分たちで!」と8名ほどの社員が終業後集まり、テーマを決め、時間も忘れて真剣に議論するようになった。「他の社員から、残業代もつかないのにバカじゃないの? と言われた。でも、バカと言われるくらいやらないと良くならないのだ」。こんなスゴイことを言う社員が現れた。この頃から、ISOWAは徐々に確実に変わっていった。

・社員はなぜ、ISOWAで働いてくれるのか? 社員に問う前に、私(社長)は何のために働く? 私もホンネはお客様より「自分と家族の幸せ」のため! 社長の私がそうならば社員も当然、同じだろう。社員は自分が会社に大切にされていると感じるから、お客様のために仕事をしよう、と思えるのだ。このプロセスから「自分と自分の愛する家族の幸せのために働ける、世界一社風のいい会社」を目指そう、と考え経営理念とした。

・経営理念を社員に語り始めた頃、私に変化が起きた。好きな社員が増えてきたのだ。自分の子がかわいい事に理屈はない。なぜ人を大切にする経営? 社員が好きだから! すると社員のなかに、こいつ俺(社長)のこと好きなのかなあ、と思える社員が増えてきた。

 報告したい話はまだありますが、ここまでとします。

 磯輪社長は、終始淡々とした口調で話をされますが、その内容は机上の理論や聞きかじりではない、まさに自らの経験と苦心の末に編み出された「実践経営哲学」。抜群の説得力で聞く者に迫ります。社員さんから慕われ愛される磯輪社長は、60歳になったとき社員さんから「還暦感謝状」なるものを贈られました。「・・・今日までの感謝と尊敬の意を込めてここに表彰致します。ISOWAビト一同」と記されていました。社長冥利に尽きる話です。同社の社員さん達は、会社と仲間に誇りを込めて自らを「ISOWAビト」と呼びます。

 磯輪社長の講演の後、坂本先生が、「同社も、いばらの道を経験した。どんな会社でも変わることは出来る。大切なのは制度より風土、戦略より理念。社長は背中と心で社員を引っ張るのだ」と結ばれました。


還暦感謝状



スローガン「ISOWAは止めません! 止まりません!」が、社内の至る所に掲示してある
上:事務室、下:工場内


屋外にある喫煙所。なぜか、どこか「優しさ」を感じる。

・追伸
ブログ「磯輪日記」をぜひ、ご覧ください(「磯輪日記」で検索できます)。
磯輪社長の手により毎日更新されています。就活学生に大人気とのこと。私たちが訪問した7月17日の夜には企業視察のことがもうアップされており、驚きました。
https://blog.goo.ne.jp/h_isowa/e/7ede33f6b0fd6f44ea582cf2dba04f3d

人を大切にする経営人財塾 浅野 隆司

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