なぜこの会社に人が集まるか~堀切勇真さん(大同生命寄付講座)
2日(金曜日)は法政大学市ヶ谷キャンパスで大同生命寄付講座「なぜこの会社に人が集まるか」が開かれた。基調講演は株式会社アドバンティク・レヒュース(ATR 前橋市)の堀切勇真代表取締役社長と坂本光司人を大切にする経営学会会長。学会から案内があり、聴講してきた。堀切社長の講演を速報したい。
事務局からは、アドバンティク・レヒュースは「産業廃棄物収集運業だが、転職的離職率ゼロ」などいくつか驚くべき数値の紹介があった。自己資本比率は88.3%、経常利益率10%超を最近、記録している。演題は「心の経営 幸福総和No1企業を創る」である。
堀切さんは現在37歳。高校球児で早稲田大学政治経済学部に進学すると野球部に所属(同期には後にプロ入りする青木宣親、鳥谷敬らがいた)したが退部。その後2年ほどパチンコに入り浸っていたそうだが、メガバンクに入行、法人営業部に配属される。その後、同社に戻って3年後の2013年に代表取締役社長に就任した。
同社は1984年の創立。堀切さんのお父さんは、日産自動車の社員だったが九州転勤を断ったところ群馬県にある廃棄物を扱うグループ会社に出向になった。そこで仲間3人に担がれての会社設立だった。その時「みながひとを大切にする会社をつくる気持ちがあるならば」と約束してもらったという。
お父さんは創業当初、「自分と会社のための朗働」などを盛り込んだ経営理念を掲げた。「30年前には大借金してゴミ屋に見えない本社をつくった。もともとはプレハブの建物だったが、誇りのある会社にしたかったようだ」と写真を表示して説明した。
堀切さんは父親について「小さい頃から格好いい親父だと思っていた。尊敬している。親父も私の一挙手一投足を認めてくれている。堀切親子は大丈夫かなどと社員に心配されることはない」と話した。また「私が何かしたというより、(事業承継時点には)いろいろできる環境があった。だから採用や給与アップができた。理念や文化はあまり変えていない」とも語った。
同社は2013年7月に有限会社大生地産(前橋市)、2016年10月に三協興産株式会社(川崎市)、2017年4月に株式会社キヨスミ産研(山形市)をグループにした。M&Aはいずれも持ち込み。現在も持ち込み案件がある。
「山形は地域経済活性化支援機構からスポンサー候補として推薦された。三協のM&Aの実績があり、人を大切にする会社として知られていた。コンペでは、解雇しないなどひとの面をプレゼンした。買収価格は次点だった」そうだ。山形からは役員賞与はもらわずその分、社員の給与アップに回した、という。ベア率は28%になった。
グループ社員数は現在222名、うち群馬71名、川崎77名、山形74名。自身が採用した社員は地元群馬で42名、うち38名は社員紹介からの採用、事務員以外は一般求人をかけていないことを明らかにした。川崎、山形でも社員紹介が増えているとのことだった。
なぜそうしたことができたのか。堀切さんは3つあげた。1小手先のテクニックでは伝わらない。おもいだけがひとを動かす。2きれいごとからしか始まらない しかしきれいごとでも始まらない。勝負できるしっかりしたモノが必要。3経営者の覚悟や姿勢(使命感)がすべて。
まずは経営哲学。2018年1月に見える化した。経営理念(ミッション)、ビジョン、社員への約束、グループ十則など。フィロソフィーはカードにして社員に配布した。すばらしい内容であり、ホームぺージを参照にしてもらいたい。
http://www.atr-eco.co.jp/content/at_group.html
同社の一人当たり人件費(給与や福利厚生費など)は823万2千円。業界平均(TKC数値)の1.6倍から1.7倍。また労働分配率は一時75%と業界平均の2倍近かったこともある(最近は50から60%)。また株式は社員が39.6%を所有しており、配当利回り5%を確約(配当金3%・株主優待2%)。ただし自分は株主優待をもらわない。
ここで堀切さんが強調したのは、業績がいいから人件費をかけられるのではなく、社員を大切にした結果、業績が良くなっている、ということである。決算の数値は社内で共有、数値をどうジャッジするかも伝えている。
売上高は前年を上回らなくても、給与については毎年、昇給させてきた。賞与3回と「大入り」と称する月次賞与がある。給料日には社員1人1人と面談、社員の話も聞くようにしているそうだ。従業員は全員、正社員。採用は理念に共有する者に限定している。
また福利厚生制度では、年間休日数は127日。日本初の男性介護休暇制度や有給休暇(リフレッシュ)の未消化分買い取り制度がある。360度評価、社長メッセージやサンキューカードなども運用している。感謝の気持ちは見える化することが大切だからだ。
なお、坂本会長は堀切さんについて「お父さんも立派だが、堀切さんはまた立派になられた」とコメントしていた。神原哲也(人を大切にする経営学会会員・中小企業診断士・認定支援機関・日本記者クラブ会員)
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