経営理念は船の方向軸
2017年、坂本光司教授のゼミ生たちは、仕事、介護、勉強、研究などを無我夢中でかいくぐる日々の中、担当企業先へ取材に行きました。私は帰り道、社長の一言に号泣しそうになりました。福島県の齋栄織物さんです。
「いい経営理念が会社を変える」(ラグーナ出版)が、経営理念に関する本の中でも稀有な本となったのには理由があります。日本各地56社の経営者が、経営理念を語ることを通して、経営者としての苦しみ、痛み、成長、歓喜、達成感など、すなわち、生きることについて肉声で本心を語り、経営の奇跡を振り返っていますが、坂本教授の本だからこそ、胸襟を開いて核心を語られていると感じます。ゼミ生たちは、うなづき、共感し、時に驚嘆しながら聞き書きで原稿を書きました。私が、56社に共通していると思う点は、社員、地域、顧客への利他の心があることです。
坂本先生の前書きを改めて読むと、腑に落ちることばかりです。今の私にとって印象深いフレーズがいくつかあり、以下にまとめます。
まず、経営理念を持つ理由は、①年々激化する世界的な企業間競争のなかで、これまで以上に全員参加経営が求められているから。②ステークホルダーが企業を見る目や期待が、かつてとは大きく変わってきているから。その会社の社会的価値は高いのか、その企業は世のため人のために役立っているのか、経営理念は共感・共鳴できるものなのか?ということで企業を評価し始めているからです。
そして、ある経営者は、理念に共感する社員を採用する理念採用に切り替えた結果、離職率は低く、組織の生産性も高くなったと語ります。
また、いい経営理念からは、社会や顧客の心に響く、社員をはじめとしたステークホルダーが共感・共鳴するような内容が匂うものです。
ちなみに経営理念の策定時期は、創業時が理想です。何をやるか、誰と組むかといった創業の目的を明確にしなければ、経営が場当たり的になるからです。
(人を大切にする経営学会 東北支部 本田佳世子)
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