介護経営のイノベーション~合掌苑の森一成さん
人を大切にする経営学会全国大会企業見学会で平成30年9月に視察させて頂いた社会福祉法人合掌苑(町田市)の森一成理事長が出版した「介護経営イノベーション」(総合出版、2月21日発行)を読んだ。
介護分野の施設やサービスの需要がこれから急増すると見込まれる中、担い手である介護施設は採用難と高い離職率という問題に直面している。森さんはこれらの問題を打破した自称「非常識な改革」を本書で公開しており、学びが多い。
そこで、詳しくは本を読んでもらうことにして、私の感想の一部を簡単にお伝えしたい。まずこの本には「経営のあるべき姿」を探求する著者の姿勢があった。まるで求道者かのようである。おそらく「いい会社」の経営者の姿とはこのようなものなのだろうと思わせてくれる。
ザ・リッツカールトンと初代日本支社長の高野登氏にはマルコ・ボルドリッジ賞に基づくクレドなど企業理念を学び、ネッツトヨタ南国の横田英毅氏には従業員モチベーションを高める秘訣を学んだ、という。横田さんがやっていることは、コーチングだと直感したようだ。
森さんの経営の枠組みは、ロマンとそろばん。渋沢栄一の論語と算盤にあやかっている。合掌苑のロマンは創業の物語や理念、そろばんはアメーバ経営。介護施設の職員は、「入居者を笑顔にしたい」といった目的(使命感)は持っているが、それを数値にした目標を持っていない。森さんはコーチングの手法により、職員の目的と目標をリンクさせたようである。1か月に70回の職員個別面談をしている。アドバイスは行わず相手に聞いている。
実は森さん、コーチングについては、学会見学会の時はいっさい触れていなかった。今回の出版では、アメーバ経営とコーチングについて助言を受けた渡邊佑さんとの共著にした。そして渡邊さんにコーチングについて執筆してもらっている。
渡邊さんは、コーチングの元祖とされるルー・タイスや認知科学者の苫米地英人に出会ってコーチングを学んだとのこと。私は苫米地氏の著書を多数読んでいるが、ここでは実にコンパクトにそのエッセンスをまとめていた。大いに参考になる内容である。
森さんは、今思えば親しみやすい人柄。風貌だけでなく、コーチングを実践してきたからではないかとも推察される。社会福祉法人の理事長の多くは名誉職になっているのが実態だが、それが限界にきている。一人でも多く、森さんの著書をヒントに経営者に経営に取り組むよう期待したいものである。
3月12日には、坂本光司人を大切にする経営学会会長をゲストに出版記念講演会を開き、書籍では語り切れなかった話もするとのこと。ぜひ聞いてもらいたいと思う。
https://kaigokeieiinnovation.peatix.com/?fbclid=IwAR3tx_h9XVHaVEbL0-hE-tjU7lFBJxSv
なお合掌苑は「日本で一番大切にしたい会社大賞」実行委員会特別賞を平成30年3月16日に受賞している。さらにこの2月14日には経営品質協議会の経営革新奨励賞を受賞している。合掌苑の概要の職員数は570名。運営施設は3つある。①合掌苑金森(特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、養護老人ホーム、居宅介護支援) 鶴の苑(介護付き有料老人ホーム、訪問介護、通所介護=デイサービス) 輝の杜(住宅型有料老人ホーム)。
神原哲也(人を大切にする経営学会会員・中小企業診断士・認定支援機関・日本記者クラブ会員)
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