「人手不足なのに賃金低下が起きている」・・・朝のNHKラジオから

12月5日朝、通勤途上の車中、NHKラジオ第1の情報番組で興味深い話題を放送していた。各界の専門家にインタビューするコーナー、この日は「人手不足なのに賃金低下が起きている」と題し、立教大学大学院特任教授、金子勝氏の出演であった。

金子教授によると、10月の有効求人倍率は1.57と依然高く、完全失業率も2.4%と低水準、なのに(物価上昇差し引いた)実質賃金は下がっている。つまり人手不足なのに実質賃金が上がらない、というおかしな現象が起きている、と。
賃金の継続的下落は企業行動のあり方が関係している。問題は、デフレを克服できず実質賃金の下落が続くこと。それは格差と貧困をもたらす。その背景は産業の衰退が著しいこと。クラウドコンピューティング、第5世代通信、半導体、バイオ医薬、様々な産業で・・・。
非正規雇用の拡大等で労働条件が壊れていく。金融緩和で円安を誘導、賃金を下げる、それで既存の製品の輸出を伸ばす、というパターンが続いている。企業は上がった収益で内部留保を蓄積する、配当を出す、自社株買いを行う、一方で労働分配率は上がらない、といった株価の最大化行動、自社株の株価総額をひき上げることが経営目標となっている。この策は景気を良く見せる一定の効果はあるが、決して良い方法とは思えない、との論調であった。
では、この状況から脱却するにはどうすればよいか、との問いに対し、
「日本的経営の長所」を想い起こすこと。アメリカ的経営のマネをして短期的利益は得られるが、長期的には国際競争力を低下させ、衰弱させることになる。実質賃金を低下させれば、デフレが克服できない。加えて年金財政の基盤も弱くなる。産業衰退を食い止めて実質的賃金を上げられるよう、地道に懸命に技術開発に注力するという、かつての日本的経営を呼び起こすこと。それが再生の鍵に、とのことであった。

経済学はド素人、経営学もスーパー未熟という私でも理解しやすい話であった
では、金子教授の言われる「日本的経営の長所」とは何か。
それは従業員の雇用や生活を守ることが経営者の責務であり、多少利益を削ってでも賃金配分を行う。そのうえで地道に技術開発や製品開発を怠らない、という「長期的利益を図る行動」を採ってきたこと、という。まさにこれは、私たちが日々学ぶ人本経営学と意を同じくする。
大手企業さんの経営は、私には難しく理解できない。しかしこの現象、「正しいか、正しくないか」と問われれば、「誰かの犠牲の上に成り立っているビジネスは、正しいはずがない」と答えられる。犠牲者は言うまでもなく「社員とその家族」だ。また、「自然か、不自然か」では当然、「不自然」と答える。「人手不足なのに賃金低下が起きている」という現象は、どう見ても自然とは思えない。

12月4日の日本経済新聞朝刊には、「経団連は、2020年の春季労使交渉で、年功賃金など日本型雇用システムの見直しを訴える方針」とあった。デジタル人財獲得のため、とある。では、我々中小事業者は? これも人本経営学のセオリーで考えたい。

人を大切にする経営人財塾 第1期生
(株)大垣ケーブルテレビ 専務取締役
浅野 隆司

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