叶 匠寿庵【No96いい会社視察2015/2/21】

今回は2015年2月に坂本ゼミの滋賀・京都合宿先としてご訪問した『株式会社叶 匠寿庵』さんをご紹介致します。

柴田冬樹社長は“創業50数年では新参者”だといい、3代目としての苦悩や覚悟を感じたお話でした。『おおみたから』という叶 匠寿庵の理念を凝縮した本は、視察から5年経った今も手に取ると心が温まります。

城州白梅の梅林
蹲の水を飲む鳥とハート♡探し

●概要 (2015年ご訪問時の資料とご説明から作成) https://www.kanou.com/

創業      1958年(昭和33年)9月

資本金   7,980万円

代表者   代表取締役社長 芝田 冬樹(3代目)

所在地   (本社)滋賀県大津市大石龍門4丁目2番1号

主な事業内容

    1. 和洋菓子の製造・販売

    2. 茶室、茶事(点心料理と茶席)

    3. 一般飲食事業(喫茶、甘味処)

事業所数 合計 70店舗

売上      65億円

従業員数 680名

●創業者;柴田清次氏

創業者の柴田清次氏は大学在学中に軍隊へ招集されています。2年後中国大陸での大けがのために帰国。その後、滋賀県特高警察官ののち、大津市役所観光課に勤務。

観光課で各地のお土産を担当している中で、大津市には心に響くお土産がなかったことと、京都にも負けないお土産をつくることを目指して39才で叶匠寿庵を創業したのです。

1992年に亡くなるまで多くの和菓子を創作し、国内外で数々の受賞歴があります。

●現在の柴田冬樹社長(旧姓;西村)の入社

大学受験に失敗し浪人中だった西村氏(現柴田冬樹社長)。

“勉強は苦手だった”といい、浪人中でありながら“手を使ってものづくりをしたかった”ことから創業者に声をかけてもらう幸運がきっかけとなって、20才で叶匠寿庵に入社しています。

入社時の面談では、創業者から当時時々あった“ストをどう思うか?”という問いかけがあり、

30秒ほど考えて、

“電車が止まると迷惑を被った。ストはいけないことだと思います”と答えたと回想してくれました。高校生の頃は電車通学だった西村青年。

“それでいい”と創業者が答えたそうです。

柴田社長は当時を振り返り、

“お客様のことを考えること、自分都合や会社都合ではいけないと言いたかったのではないか”と感じています。

創業者は“明日から来い”と言ってくれたと言います。

●柴田冬樹社長が目指したもの

現在680名いる従業員。創業者を知っている人は1割くらいだと言います。

創業者と2代目はカリスマ性があり、お菓子作りにまい進しました。お菓子業界は老舗が多い中、“新参者”の同社は少しずつ存在を証明していったのです。

柴田冬樹社長は3代目、入社は31年目(視察当時)。しかも2代目のご長女と結婚され娘婿の立場としてはカリスマを継承すべきではありませんでした。そして有難いことに2代目の会長は経営を任せてくれました。

そんな状況で経営者となった柴田冬樹社長の目に映った会社の課題は、普段の何気ない従業員のふるまいや礼儀から、従業員が受け身体質で、指示される事への慣れだったと言います。

創業時の想いを全従業員に共有するべきだと、原点回帰をしようと考えたのでした。

『おおみたから』はそんな想いを込められて発刊されています。

大切にしたい『おおみたから』

視察当時は10年計画が進行中で、従業員の働く環境の整備に着手しているところでした。それまで本社社屋や研究開発施設はプレハブのようだったといい、建て替えに着手するところでした。

また全国の店舗でお客様に接している従業員からの提案を受ける仕組みなど社内改革が始まっていました。

例え失敗しても自分で考えて行動する風土を作り始めていました。

社長は社員によくこのお話されるといいます。

“今はまだまだだが、10年後この会社にいてよかったと思えるようにするから”

●寿長生の郷(すないのさと)

63000坪の広さがある寿長生の郷には叶 匠寿庵の本社、工房、梅林などの果樹林や自然豊かな草花の里、販売店や食事処、茶席などの施設があります。昔の里山がそのままになっているような心落ち着く空気に包みこまれます。

ここには同社唯一の菓子工場があり、ここから全国へ配送されています。

また上州白梅という品種の苗木を1984年に社員総出で1000本植え、今では年間15トンもの収穫があります。7月頃収穫し、梅蔵で1,5~2年漬け込み、梅酒ができるまでに3年かかります。

和菓子の原料もできるだけ敷地内で栽培しています。

間伐材は炭になり、登り窯では器をつくります。

紙漉き工房では障がい者3名が名刺やはがきを製造しています。(障がい者は工場勤務の方もいます)

●最後に

昔、里山は田畑として耕すだけではなく生活そのものを支えていました。手間暇をかけることで生活に多くの恵みを与えたのです。

『おおみたから』には、“お菓子作りは農産物加工業”、“自分たちが育ててきたからこそわかる素材の良さをお菓子作りに活かしていく”と書かれています。

叶 匠寿庵は、自分たちで丹精込めて育てることのすばらしさや農事の大切さを今も守っている貴重な存在なのです。

***補足***

この投稿では2012/4~2018/3までの6年間法政大学大学院 政策創造研究科 坂本研究室で経験した【いい会社視察】・【プロジェクト】・【授業で学んだこと】を中心に、毎週火曜日にお届けしております。個人的な認識をもとにした投稿になりますので、間違いや誤解をまねく表現等あった場合はご容赦いただければ幸いです。(人を大切にする経営学会会員;桝谷光洋)

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