タクシー会社社長は元労組委員長
ザ・ノンフィクション(フジテレビ)で21年5月に放送された「東京、タクシー物語。コロナとシングルマザーの運転手」で取材を受けたのは、離婚を機に茨城から転職し東京のタクシー運転手になった恭子さん。6歳の一人娘を育てるために稼げる仕事は何かを探し、3年前に決意した結果だ。運転手なら毎日の勤務時間を調整することができる上に、タクシー会社が運営する保育園に娘を預けながら、会社が借り上げた部屋で暮らすことができる。当初は売上も順調で、人生の選択に間違いはなかったと思われた。
しかし、2020年からのコロナウィルス危機、緊急事態宣言により、街には人通りがなくなり、タクシー業界は売り上げを大幅に落とす大打撃を受けた。歩合制の運転手の中には生活のために職場を変える人もいた。恭子さんも月収が半分以下になり、娘までが母親の成果を心配して電話で乗車状況を聞き低い数字に一緒に嘆くという苦境を必死にもがく様子が番組で紹介されていた。
筆者は、番組の中で恭子さんへの応援の気持ちを持つとともに、彼女を支援する経営者に関心を持った。番組の中にはあまり出てこないのだが、チラッと映る社長の温かな表情に引き付けられ、取材の申し込みをした。「私なんかに取材をいただいても平凡すぎてお役に立てませんよ」と恐縮されたが、気持ちよく訪問の機会をいただいた。
葵交通株式会社(杉並区)の田中秀和社長は、多くのタクシー会社の社長のような親族から引き継いだ社長ではない。葵交通は日産東京販売HDグループのタクシー会社であり、田中社長は1980年に東京日産自動車販売(株)に入社され販売や人事の部署で活躍された。田中社長によると、1989年から人事部付の東京日産自動車労組専従を経験したことが人格形成に大きく寄与したという。各社の労組との連携を模索する中で、自分の主義主張を実現する敵対的な組合活動よりも従業員と経営者が家族のように支え合う職場環境の実現に邁進する。特に苦しかったのは、2002年の法改正から社会問題として浮上した年金の代行返上により、2011年に年金解散という苦渋に至ったことだという。
田中社長が葵交通の社長として胸を張ったのは、「働きやすい職場認証制度認定」と「2021年に21年連続の特別優良表彰会社」として都内332社中第7位の信頼ある会社として評価されていることだった。訪問してよくわかるのは、運転者控室での和気あいあいとした雰囲気の良さだ。他社なら売上目標に縛られたり仲間同士の衝突もあり空気は重い。葵交通が掲げる「人が全てであり、社員の幸福を最優先に考える」という乗務員第一主義はホンモノである。謙虚で静かな田中社長が唯一自慢するこの理念は、自身の組合活動で培った仲間意識で裏付けされていた。
(人を大切にする経営学会会員 根本幸治)
仕事は人に付いてくることが、多いですよね!
どんな職業でも人との繋がり無しでは成り立たない
社内も社外も車内も人対人なんですね
改めて感じました
木戸様
コメントを頂戴し,ありがとうございます。
ご指摘の通り、人対人なんですよね!
取材を機に、タクシーに乗車するときは運転手さんとの会話を楽しむことにしました。