人形工房「ふらここ」の経営理念と浸透策
家業の人形づくりから2008年に独立した原英洋さん。株式会社ふらここ創業時は経営理念など頭になかったといいます。夫婦2人での起業、業界の問屋卸しという因習を打ち破り、衰退産業の業界に一矢報いるために、迷いながら一生懸命に製造と販売に向き合う毎日でした。
経営理念: 伝統の創造 社員の幸せの実現
原さんが抱く業界の問題点は、伝統工芸を守ることで購入者のニーズからどんどん離れていることでした。購入者にとって、マンションの1室に大きなひな壇を飾るのは難しい。人形の顔もどこのお店で買っても同じ。原さんは「お客さまが望むもの・喜んでくださるものを提供したい」ために独立しました。お客さまが望んでいるのは、世界でひとつだけの雛人形。ふらここの雛人形は、赤ちゃんのようにふっくらとした丸顔であったり、手のひらサイズのかわいらしい人形です。すべてのデザインは、ふらここの社員が企画しています。社員はお客さまと同じ若い母親世代なので、伝統に縛られることなく自由にアイデアが膨らみ、手に取ってくださるお客さまを想像し、社員は楽しんで仕上げていきます。
伝統の破壊と創造で、原さんは人形工房が経営として成り立つことを証明しました。もうひとつ特筆すべき原さんの活動は、企業として効率を求めるのではなく、社員が幸せに働く場所として企業を考えていることです。そのために、組織としての秩序を重視しています。理念を共有する仲間を作るために、経営理念の浸透策を打っています。
経営理念の浸透策 ①人事制度に理念を果たすための評価基準を入れる ②社員教育の際に理念への思いを話す ③理念に即した業務を考え理念の価値を体現する
原さんは社員全員で人事制度をつくりました。どんな人事制度があったらいいかを意見交換し、社員が望むことと経営側が望むことをミックスさせ、経営理念を人事制度に落とし込みました。また、新人研修や人事制度に関するミーティング、職位ランクアップ研修など、原さん自身が理念について語り、その再確認を促しています。
人形の製作に関わっている職人は30人以上でその仕事は分業化されています。その中で、企画と仕上げは必ず社内で行っています。自ら手をかけることでお客さまに思いを伝えられると考えるからです。このようにして業務の中に理念の浸透を図っています。「思い」があってこその人形工房です。(学会会員:根本幸治)
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