指示・指導と懲戒としての厳重注意の違い
経営者の方々は当然に分かっていることでも、中間管理職が理解していないことに、一般的な指示・指導と懲戒としての厳重注意の違いがあります。
指示・指導は、日常的に上長から部下に対して行われることです。この指示・指導には様々なレベルがあります。単なる注意喚起もあれば、叱責に近い指導もあり得ます。
しかし、指示・指導のつもりなのに、「厳重注意だ」と言ってしまうと、就業規則に記載されている懲戒処分としての戒告、厳重注意との違いが不明確になってしまいます。何が違うのでしょうか。
日常的な指示・指導の場合には、社員のある言動や業務内容に対して意見を言う場合がほとんどです。たとえば、B社員が「A社員からパワハラを受けている。」という話を上長にした際、本当にA社員がパワハラをしているかどうかの事実を厳密に確認しなくても、A社員に対して、「パワハラはしてはダメだよ。」と注意をすることは日常的な指示・指導として可能です。もっとも、注意する前に、実際にはパワハラの有無は確定しておいた方が、A社員からの信頼は損なわないでしょう。
一方で、懲戒処分としての戒告や厳重注意は、簡単には出すことは出来ません。まず、処分権限がある者がしなければなりません。また罰則の意味がありますので、文書により発出すべきです。また前述のパワハラの訴えの場合でも、B社員の訴えだけで判断せず、他の社員等にヒヤリングをしたり、事実関係の裏付けを取る必要があります。またその上で、仮にパワハラの事実があると判断した場合には、A社員に対して弁明の機会を与えなければなりません。これらの手続きを経た上で、始めて懲戒処分としての戒告や厳重注意をすることができます。
ルールは、あくまで人間関係を円滑にするためにあります。手続きも同じです。ルール自体には、色はありません。A社員を有利にしたり、B社員を有利にしたりするようなことはありません。
どんなにいい会社でも社員同士のトラブルは起こりうることです。その場合に、みんながきちんと就業規則などのルールを知っていることが、トラブルを円満に解決する基盤となります。経営者、中間管理職、社員皆が誤りのない共通の理解をもつことが大切です。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)
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