社員に対する株式報酬
2025年2月10日付け日経新聞電子版に、「自社株、従業員に報酬で譲渡可能に 高度人材獲得促す」との記事が出ていました。
社員の持株制度については、社員に対する企業価値や株価に対する意識を高める効果やエンゲージメント向上効果が認められると言われてきました。
もっとも、役員ではなく、社員に株式を交付するには主に2つの法律上のハードルがありました。
まず第一は、労基法上のハードルです。
労基法11条には「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」とされ、同法24条に「賃金は、通貨で」支払わなければならないとされています。この点で、通貨に代えて株式で支払うことはできないとされてきました。
この点については、経産省で作成された「『攻めの経営』を促す役員報酬―企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引きー(2023年3月31日時点版)」において、以下の要件を満たせば、当該株式報酬は賃金には含まれず、「福利厚生施設」に該当するものとして、社員に株式報酬を与えることができると整理されました。
a.通貨による賃金等(退職金などの支給が期待されている貨幣賃金を含む。)を減額することなく付加的に付与されるものであること。
b.労働契約や就業規則において賃金等として支給されるものとされていないこと
c.通貨による賃金等の額を合算した水準と、スキーム導入時点の株価を比較して、労働の対償全体の中で、前者が労働者が受ける利益の主たるものであること。(手引き101頁)
誤解を恐れずに簡単に言えば、通常の賃金とは全く別に株式報酬として支給するのであればよいということになります。
第二は、会社法上のハードルです。
会社法上では、社員に対して株式を無償で交付することはできなかったため、色々とテクニカルな方法を利用しなければなりませんでした。
今回法制審議会では、この点の会社法の見直しをすすめ、社員に対して株式を無償で交付することが可能となるとのことです。まだどのような改正となるか具体的には明らかとなっていませんが、この無償交付の対象の株式を種類株も認めることとなれば、様々な条件を付けた株式(譲渡制限だけでなく、議決権がなく配当のみとしたり、議決権を一身専属とするなど)を発行することができ、より多様な社員による持株が促進されることとなります。
人を大切にする経営にとって追い風の改正法となりますので、今後注視していきたいと思います。
(学会 法務部会 弁護士山田勝彦)
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