危機的な状況にこそ「人を大切にする経営」の真価が問われる
昨年まで経営人財塾7期で1年間学ばせていただきました、埼玉県さいたま市にあります社会福祉法人永寿荘の永嶋正史と申します。私たちの法人は介護・保育・福祉の事業を中心に事業運営を行っています。
「For The Community-地域を元気に、笑顔をつなぐ-」を理念に事業運営をしていますが、2019年に法人設立以来の危機を迎えました。
2019年(令和元年)10月6日にマリアナ諸島の東海上で台風19号が発生しました。前月には台風15号による千葉県を中心に甚大な被害が発生しており、この台風19号の発生当初より予想進路や予想雨量を確認しながらも「なんとか大きな被害が発生しなければ良いな」と願う気持ちでした。
台風上陸前から断続的に強い雨が降り続き、当法人では2009年にさいたま市内にある老人ホーム「今羽の森」が床上浸水を経験していましたので、当該の老人ホームの様子を注視していました。
10月12日の夜10時過ぎ、雨足も弱まり「今羽の森」からも浸水被害がない旨の報告をうけてほっと胸を撫で下ろしていたところ、上尾市内にある老人ホーム「ご福あげお」の施設長から私宛に電話の着信がありました。ドキドキとしながら被害がなかった報告でありますようにと願いながらも電話に出ると「申し訳ありません!いま1階部分で浸水がはじまっています!」との報告でした。
私の自宅から一番近い施設でしたのでハザードマップ状況や過去の台風被害を思い返しても浸水被害はないだろうと考えていました。「まさか!」そんな想いを抱えながら急ぎ施設に向かうと想像を絶する状況になっていました。
私が到着した頃には足首程度の浸水でしたが、瞬く間に水量が増えてきました。夜の時間帯ですので介護職員の人員も少なく、遅番の職員と夜勤職員により1階に入居しているご利用者様を2階に避難してもらいました。また、ご利用者様の私物、ベッド等もエレベーターで上階に運び込みました。時間とともに増す水量は、膝下程度までになり、日付を超える頃に居室の窓が破損したことにより一気に水量が増し、エレベーターも使用ができなくなり、さまざまな機器の警報音や警報のためのフラッシュライトがけたたましく館内に鳴り響いていました。警報音は一度止めても何度も何度も鳴り響き、異様な状況となっていました。音や光は人の心を激しく揺さぶります。はじめてのことで平静を装いながらも、どんな判断をするのかに自分の頭の中はパニックの状態です。勢いを増す水量は180cm程度にまでなり、2階にも浸水するのではないか、もしそうなれば避難する場所も確保できなくなってしまう。そのような恐ろしさを抱えながら夜が明けてきました。
最終的に浸水180cm超えとなり施設の1階は全て水没しました。上下水道、電話、ナースコール、エレベーター、Wi-Fiが使用不能となり施設全体が機能不全の状態となりました。
とくに上下水道が使用できないということは、トイレ、風呂、厨房の利用ができないということになります。施設は使用できても、ご利用者様の生命にかかわる事態となり、目の前が真っ暗な状態の中、台風被害のない施設から早朝の段階で大量の備蓄用に準備されていたペットボトルの水が運び込まれました。とくに何も連絡をしない中で各施設の施設長が自主的に行動を起こしてくれたのです。その後も、各施設から続々と物資や人員の援助が自然と行われました。浸水した2階部分のご利用者様についても各施設にて分散して一時的に転居してもらうことになりました。そして何よりも浸水した1階部分の大量の土砂や備品の搬出をどうしていくか頭を悩ませていました。
八方塞がりの中、施設を建設してくれたゼネコンさんが真っ先に駆けつけてくれ、人員的部分も含め、原状回復に全面サポートをしてくれる旨を伝えてくれました。その後も老人福祉施設協会の方々、お取引様が次々にサポートに駆けつけていただきました。なかには泥だらけになって我々とともに汚泥や泥にまみれた品々の搬出作業を手伝ってくれました。何よりも、法人内の他事業所から毎日10名以上の職員が一言も文句を言わずに手伝いにきていただいたことは、本当にかけがいのない想いでいっぱいになりました。
当時は「人を大切にする経営」ということを言葉上でしか理解をしていませんでしたが、昨年1年間の学びの中で、2019年の台風被害からの復活が予想以上に早くできたことは、まさに弊社の一人ひとりが「人を大切にする」を実践してきたからこそなのではないかと感じいています。今後も、社員とその家族、協力会社とその家族、顧客、地域社会、関係機関、という関係者の幸せを追求し、五方良しの状態を目指します。


人財塾7期生
社会福祉法人永寿荘
永嶋正史
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