大切にする5人の最後が株主である理由
ご承知のとおり、人を大切にする経営では大切にする5者の内の最初が社員、最後が株主であるとされます。ではなぜ株主が最後になるのか。
これまで、会社法の世界では、経営者は株主の利益を最大化する形で企業価値を向上させるべきであると考えてきました。もっとも、その理由は、株主は他のステークホルダーと比較して、最後に残余収益の分配を受ける者であるから、株主利益を最大化することはステークホルダーの総利益の最大化を意味するからだと言われてきました。つまり、これまでも株主利益の最大化とは、株主利益を優先的に考えるというものではありませんでした。この点は、世間で誤解をされています。
しかし現在は会社法の考え方以上にステークホルダーの利益を前面に押し出した考え方が有効とされています。
1994年に発表されたアメリカ法律協会の「コーポレート・ガバナンスの原理:分析と勧告」8証券取引法研究会国際部会訳編」では、株主利益につながらない場合でも会社は社会的責任を果たすことができると記載されました。
また2006年に改正されたイギリス会社法では、172条で取締役の義務として「会社の成功を促進すべき義務」があるとされ、次のように規定されています。
(1)会社の取締役は、当該会社の株主全体の利益のために当該会社の成功を促進する可能性が最も大きいであろうと誠実に考えるところに従って行為しなければならない。且つ、そのように行為するにあたり(特に)次の各号に掲げる事項を考慮しなければならない。
(a)一切の意思決定により長期的に生じる可能性のある結果
(b)当該会社の従業員の利益
(c)供給業者、顧客その他と当該会社との事業場の関係の発展を促す必要性
(d)当該会社の事業のもたらす地域社会及び環境への影響
(e)当該会社がその事業活動の水準の高さに係る評判を維持することの有効性
(その他:略 イギリス2006年会社法イギリス会社法制研究会 中村信男、田中庸介)
ここには、経営にあたって、経営者は、従業員の利益、取引先の利益、顧客の利益、地域社会への影響を考慮するように義務づけられています。
日本の会社法は、まだイギリスほど進んでおらず、遅れています。
とはいえ、従前の会社法の考える株主利益の最大化の根拠からすれば、社員、社外社員、顧客、地域社会や弱者を大切にする結果、株主も利益を得ることができるという考え方を取れば、人を大切にする経営と合致することになります。
株主は、会社が大切にする順位としては、末席でなければならないのです。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)
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