対話

先日都内へ出張した昼下がり、電車の乗客はまばらで座ることができた。私の前の席に座った女性が鞄から本を取り出し読み始めたのだが、その鮮やかなオレンジ色の表紙に大きなゴシック体のタイトル文字で「ダイアローグ」とあったので、とても興味を引かれ、すぐさまAmazonで調べてみた。

帯に「早く行くなら一人で行け、遠くに行くならみんなで話せ」とある。これは人財塾で学んだことと相通ずるものがあると思い、益々興味を持った。著者は熊平美香氏。「抜萃のつゞり」で有名な株式会社クマヒラ(熊平製作所)と関係のある方のようだ。これは読まないわけにはいかないと思い、車内で衝動買いした。

これも何かの縁だろうとも思いながら目の前に座った女性に感謝の気持ちを抱いたが、話しかける勇気はなかった。

今日はその本の中から少しだけ・・・

「ディベート」は、自分の主張は変えず、主張の正当性を証明するものだが、主張を傾聴し、相互学習するものが「対話」と、まず初めにある。

変化が激しく問題が複雑に絡み合った現代は、一人の人間が既知の知識やものの見方を使って答えが出せるほど簡単な時代ではありません。(中略)

これまでのものの見方、これまでの常識、これまでの成功体験が通用しなくなった今、かつてないほど対話の果たす役割は大きくなっています。(「はじめに」より抜粋)

と、上意下達のトップダウンの限界と、対話の大切さを説いている。

●対話の5つの基礎力 一人で考えることには限界がある
対話の基礎力1 メタ認知
対話の基礎力2 評価判断の保留
対話の基礎力3 傾聴
対話の基礎力4 学習と変容
対話の基礎力5 リアルタイム・リフレクション
(「もくじ」より抜粋)

どれも興味深かったが、私は特に基礎力2「評価判断の保留」について目から鱗が落ちた。我々経営者には日ごろから素早い判断が求められているが、対話をするときはそれを一旦保留しなさいとある。評価判断を保留し、自分と自分の意見を切り離すことで中立の立場で対話に臨むことができ、相手の世界や価値観を共有してお互いに学ぶことができるとある。

自分自身を振り返ると、人との「会話」の場面において、相手が話しているときにも、次に自分は何を言おうか考えながら相手の話を聞いていることが多い。評価判断を繰り返しながら次に何を言うか考えていて、相手の話が切れると間髪入れずにしゃべり出し、反対意見を述べることもしばしばだ。反対意見が悪いとばかりは思わないが、反応が早い方が頭の回転が速く秀でているかのように考えてしまっている。傾聴できていないから「対話」ではなく「会話」だ。相手の話は半分も聞けず、相手から学ぶことも浅く少ない。恥ずかしい私の内面だ。

本を読み少し反省しながら、早速経営者仲間との会話で試してみたが、すっかり習慣になっているのでなかなか難しかった。しかし意識し続けながら何度か試行してみると、少しだけ相手の気持ちがわかる気がした。

経営者にとって必要な資質として熊平氏は、「リフレクション(自己内省)」と「ダイアローグ(対話)」の二つを挙げている。

先週11月5日のブログでは、人財塾7期の同期生で一緒に学んだ天彦産業の伊藤さんが、同じ「対話」の大切さについて書いていたので、興味深く読んだ。仲間とまた会う機会をつくって、一緒に経営についての「対話」をしたいと思った。

出典:熊平美香、ダイアローグ 価値を生み出す組織に変わる対話の技術、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2023

人財塾7期生
株式会社三富子ケース 大畑仁人

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