同一労働同一賃金、司法と行政の評価分れる
法律が改正されたり、新たに制定されるには時間がかかります。通常、世の中で問題が発生し、それが裁判等になって、ある程度裁判例や最高裁判所の判断がでると、それにそって法改正や行政のガイドライン、指針等が出される流れになっています。
ところが、今回、厚労省が出した「同一労働同一賃ガイドライン」は最高裁裁判所の判例と異なる指針を示しました。
同一労働同一賃金は、正規社員と非正規社員について、処遇をできるだけ同一にすることを求めています。しかし、会社の収益は直ぐに拡大するわけではありません。限られた収益をどのように分配するか、同一労働同一賃金は、経営者を悩ませる問題です。
最高裁判所の判決に、済生会山口総合病院事件(著名な判例には事件名が付くのが一般的です)では、同一労働同一賃金を実現するために、就業規則を変更し、手当の組み替えをして、正規社員と非正規社員の手当の均衡を図ろうとし、その結果正規社員の手当が減額し、非正規社員の手当が増額しました。これに対して、労働組合が不利益変更で、就業規則変更の合理性がないと争いました。裁判所は、地裁、高裁、最高裁ともに人件費の総額は変更されていないことから、その就業規則変更に違法性はないとしました。
しかし、今回の厚労省のガイドラインには、「通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく(非正規社員の)労働条件の改善を図ることが求められる。」と記載しました。つまり、正規職員の手当を減額することによって、非正規職員の手当に充てるという手法は基本的には望ましいとはいえないとしたのです。
つまり最高裁判所の判例に行政がガイドラインという形で不服を申立てた形になります。通常、最高裁判所の判例は、直ぐには変更されないことが多いです。したがって、私たち弁護士も判例を基準にして、様々な問題の判断をします。済生会山口総合病院事件の最高裁判所の判決は、令和5年5月24日に出ました。通常であれば、少なくても4~5年は変更されることはないと思われます。
しかし行政がその判例にNoを突きつけたことになります。したがって、これからは、判例があるから同じ原資の範囲内で同一労働同一賃金を実現しようとする場合に、正規職員の手当が減ることがあってもやむを得ないとは言えなくなるかもしれません。つまり、もし同様の事件が裁判になった場合、裁判所は判例に従うのか、行政のガイドラインに従うのか悩ましい事態となります。
このようなガイドラインが出ている以上、安易に判例に従うのはリスクがあると言わざるを得ません。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)

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