言葉について考える
【バベルの塔が教えてくれること】
旧約聖書に登場する「バベルの塔」の物語をご存じでしょうか。
天まで届く塔を建てようとした人間のおごりに対し、神は人々の言葉をバラバラにすることで、意思疎通を不可能にしました。その結果、プロジェクトは崩壊し、人々は世界中へと散らばっていったというお話です。
この物語の裏側には、一つの真理があります。それは、「共通の言語」が人々の意思を統一し、巨大なプロジェクトをも推進させるもっともすぐれた原動力であるということです。組織において言葉が揃っているということは、単なるコミュニケーションの問題ではなく、存立そのものに関わる組織の基盤といえます。
【「経営理念」という名の共通言語】
私は「人財塾」での学びを通じ、人を大切にする経営を実践されている多くの企業に出会わせていただきました。それらの素晴らしい企業様に共通しているのは、磨き抜かれ、言語化された「経営理念」があるということです。
「私たちは何を大切にしているのか」
「私たちはどこを目指しているのか」
理念が具体的な言葉として定義され、社員一人ひとりに深く浸透している組織では、働くことの意義が明確になります。意義が明確になれば、日々の仕事にやりがいが生まれ、結果として働くことが「幸せ」へと繋がっていく。そこには幸福な循環がありました。
【理念を「常識」に変える、経営者の役割】
税理士として見てきた中小企業の経営者の中には、思いはあっても経営理念を言語化していない、とか経営計画書を作ったけど引き出しに入れたまま、という方が少なからずありました。経営者が理念を掲げるのは、あくまでスタートに過ぎません。大切なのは、その理念を意思決定の基準とし、実務の現場で繰り返し使い続けることです。
何度も語られ、実践と結びつくことで理念は、やがて社内における「当たり前の感覚(常識)」へと変わります。このプロセスを経て初めて、社員一人ひとりの「この会社で働くこと」と「自分の人生」が、理念という結び目を通じて同じ方向を向くようになるのです。
変化の激しいこれからの社会において、持続可能な企業とは、スペックや技術だけでではなく、人の心と理念が深く結びついている企業なのです。こうした企業こそが、真の強さを発揮するのではないでしょうか。
【言葉を育てるための「バイブル」を持つ】
理念を共通言語にするためには、言葉の「解釈」を揃えるプロセスが欠かせません。
• 「大切にする」とは、具体的にどうすることか?
• 「幸せ」の定義とは何か?
• 「成長」とは何を指すのか?
こうした問いに立ち返るとき、指針となるのが『人を大切にする経営学用語事典』(2025年5月発刊)です。この一冊は、私にとっての“バイブル”です。
【日々の小さな積み重ねが、組織の血肉となる】。
• 朝礼で、一つのキーワードについて対話してみる。
• 個別面談で、判断の根拠として引用してみる。
• 事例共有の際、「これはどの言葉を体現したものだろう」と問いかけてみる。
こうした地道な反復こそが、迷ったときの「判断軸」を作り、全員が立ち戻るべき場所を明確にしてくれます。
理念がつながり、言葉がそろい、行動がそろう。
その先に生まれる揺るぎない組織の絆こそが、これからの社会を支え、未来を切り拓く力になると私は信じています。
人財塾8期生 税理士 伊藤由美子



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