ポンタナラート クリティニー氏基調講演【番外No28チュラロンコン大商・会計学部講師学2018/9/16】
今回は2018年9月16日に慶応義塾大学日吉キャンパスで開催された「人を大切にする経営学会 第5回 全国大会」にタイからお越しいただいたチュラロンコン大学商・会計学部講師;ポンタナラート クリティニー氏(Kate Kritinee Pongtanalert)の特別講演から印象的だったお話をご紹介させていただきます。
クリティニーさんは講演の冒頭、“両親が松下のタイ工場で30年以上働いていました”、こんな話から講演が始まりました。実はこの講演の直前には元パナソニック代表取締役専務;榎戸康二氏のプレゼンがありました。200名以上集まった会場はクリティニーさんの状況判断と素敵な日本語を操る女性の講演に引き込まれていきました。
●背景・経緯
クリティニーさんはタイで国費留学に選ばれたとても優秀な女性です。アメリカと日本の大学を選べる立場から日本を選択。両親の日系企業の勤務から日本に“魅了されていた”と日本を選んだ理由をお話されました。
神戸大学に学び専門はマーケティング。同大大学院博士課程も修了し、今はタイに帰国してチュラロンコン大学で講師をされています。そんな中、坂本先生の本を読んだことから教育の一環として大学生を連れて伊那食品、中央タクシー、さくら住宅を視察するために来日。最後のさくら住宅さんで、“坂本先生をタイにお招きしたら”とアドバイスされ、“勇気を出して”坂本先生にメールを送ったことから2018年6月坂本先生がタイへ視察、そして今回の学会でのご縁となりました。
今回の特別講演では、「人を大切にする経営は世界にも通用できる:タイの事例から」と題してお話をしていただきました。
●タイ国の特徴
宗教と国王の影響が大きい国
親孝行を重視する文化
寄付文化(徳をつめば来世の人生もよくなるという考え)
●一般的なタイ企業の雇用について
タイは失業率が2017年で1%台と低く転職率が16%台と高い
一般的に転職をすると給与が上がることから30歳代では平均3回以上転職している
給与アップを求めてすぐ転職することから経営者は社員教育に投資をしない
経営者は労働者に労働力として長時間働くことを期待
●日本との違い(タイにはあまりない概念)
経営理念 あったとしても飾り物でしかない
三方よし このような考え方はない
企業研修 タイではOJTばかりで研修はしない。給与をもらいながら研修を受けられることはあり得ない。
●事例 すいか社(当日2社の事例紹介から1社のみ)
アパレル業。200か国に輸出。女性の経営者。
<特徴>
・経営者の考え方を浸透させていることから理念経営と言える。“美しい服を作るには美しい心”
・入社時の面接では“あなたは母親を愛していますか?”と聞く。
・社員を信頼している
✓タイムカードなし(いつ出社してもよい)
✓荷物検査をしない
✓ベルタイマーがない(各チームの目標数を達成したら帰って良い)
・タイ国民は給与をギャンブルやお酒にお金を使ってしまう傾向があるため、社員には給与で土地や金(きん)を買うことを勧め、安定した生活をサポートしている。
<職場環境や制度の整備>
・工場は森の中に立地し川沿いのデッキで休憩でき、週末には家族の憩いの場にもなる。
・食堂は月100バーツ(約3000円)で3食食べ放題。しかも家族の分を持ち帰ることができる。
・帰省の時は20枚のシャツ(同社製品)を家族や親せきのために選んでお土産にできる。
人としての教育
同社の経営者は女性ですが、母親のような人で、社員を自分の子供のように大切に接しているのではないかと感じました。この経営者がなぜこのような考えに至ったのか、その背景や哲学、起業のきっかけなど知りたいと思いました。きっと感銘的なお話を聞けるのではないかと思います。
最後にクリティニーさんは、“タイの経営者は人を大切にする経営を説明してもピンとこないことが悩み。どうしたら日本の皆さんのように関心を持てるかアドバイスが欲しい。”とおっしゃっていました。
今回のお話を聞いて、日本と違うタイの雇用状況に驚きました。各国ならではの事情があります。しかし経営者にとって業績やシェアではなく、社員の幸せを追求する思いが理解され、社員の勤続年数の長期化が企業に与える効果や社員にとっても転職をしないことのメリットが理解されるようになれば、いい会社を目指す機運が高まるのではないかと感じました。
クリティニーさんの話し方はマイルドでやさしさや温かさに溢れていました。
日本語を話す様子は自然な口調で、語彙も豊富、間の取り方も日本人以上に素晴らしく、タイ国内、そしてタイから世界へ、人を大切する経営を一歩一歩広げていく姿を想像せずにはいられませんでした。
***補足***
この投稿では2012/4~2018/3までの6年間法政大学大学院 政策創造研究科 坂本研究室で経験した【いい会社視察】・【プロジェクト】・【授業で学んだこと】を中心に、毎週火曜日にお届けしております。個人的な認識をもとにした投稿になりますので、間違いや誤解をまねく表現等あった場合はご容赦いただければ幸いです。(桝谷光洋)
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