「時間外労働」現状とこれから~当社の場合

2018年は「働き方改革関連法案」が成立した年であった。長時間労働の是正、多様な働き方、同一労働同一賃金等、私たちにも多くの課題が与えられた。
当社(大垣ケーブルテレビ)の事で恐縮だが、先月(12月)中旬、年末業務に慌ただしいさなか、大垣労働基準監督署の監督官が突然、来社した。これから調査を行うと言う。あまりに急であったため、4~5日延期してもらう。後日の調査で、一部に時間外勤務の多い社員がいること、また、勤怠管理システムの退出データと時間外(残業申請)データに乖離のある社員のいることが指摘された。即ち何人かの社員が、退出時刻と終業時刻(当社は9:00~18:00)との間に30~50分程度のズレがある、残業届も出てなく時間外手当も支給されていない、何故か? というもの。今の時代、当然の指摘であろう。

当社は終業時刻である18時より、デイリーのニュース番組の放送がある(10分間)。基本、放送部門の社員は全員で番組を視聴、終了後家路に就く。その頃、私は残った社員と自分のためによくコーヒーを淹れる。時には茶菓子(駄菓子)も振舞う。コーヒーはせいぜい5~6人分、コーヒー豆や駄菓子は当然、私のポケットマネーだ。そんな些細なことでも社員たちは、第二の福利厚生だ、などと言って結構喜んでくれる。終業時刻が過ぎたあとの、仕事とは言えない中途半端な時間が過ぎてゆく。その時の雑談から、アイデアや気付きが生まれることもある。親睦が深まることもある。但しこの時間は業務とは認めていない。大半の社員は終業後すぐ帰宅するので、帰りづらい空気はないと思う。私はこの時間を是としていた。
一方、時間外勤務の多い社員は特に放送部門(番組制作に関わる社員)に多い。彼らの多くは職人のような感覚を持ち、自己満足ではなく番組(作品)が視聴者にどう伝わるか、いかに喜んでもらえる番組を作るかに骨身を惜しまず日夜精進している。
手前味噌であるが、当社の番組制作力は全国レベルで一定の評価を得ており、ほぼ毎年、様々なコンテストやアワードで賞を頂いている。これらは、勤務時間の概念を超えた真摯な姿勢、気構えから生まれることも否定できない。
放送部門の管理職が言う。
管理職は時計番、時間が来たら、帰れ帰れ、とばかり言わなくてはならない。なかなか帰ろうとしない部下、そんな部下を嫌いになりそうだ。もうウチでは、コンテストで入賞するような良い作品は生まれないかも知れない。ニュースや情報番組を時計と睨めっこしながら決められた時間までに編集する、それが仕事。毎日が作業のような仕事。番組の中身より時間ばかりを気にするようになる。これが制作者と言えますか? と。
彼に対して私は、返す言葉がなかった。
無論、彼も長時間勤務を良しとしているわけではない。しかし良い番組は時間管理の中からは生まれない。裁量労働制、との声も聞こえてきそうだが、これは現場の若い制作者には適用できない。
彼らの真摯な創作意欲、仕事の成果に対しては、まず労働分配率を上げることで応えてきた。当社社員の税込年収は、当地区の中小企業では安定的に上位であると自負している(顧問社労士、会計士の先生方からもお認め頂いている)。だから欲得なしに頑張る社員がいる、とまでは思わないが、安心して働けるベースにはなっていると考えている。衛生要因たる所以である。

私も学会の人財塾で学ぶ経営者として「人を大切にする会社」を目指している。社員が最も大切。いくら良い番組が制作され、高い評価を得られても、社員の心と体を蝕むようでは意味がない。
社員や管理職のモチベーション、また制作者としての熱い想いを大切に保ちつつ、時間外労働を極力抑え、限られた人財でお客様や地域に喜ばれる番組をどう創り続けていくか。その環境を会社はどう整備するか。それがいま、問われている。平成の時代が終わろうとしているのに、昭和の経営者のままではいけない、と反省する。

折も折、この「学会ブログ」1月5日に事務局の坂本洋介氏が、働き方改革における経営者の役割について「経営者・上司に求められる冷静な判断能力」と題し執筆されている。そこには、
『働き方改革のなか、休日出勤をも厭わない仕事熱心な社員がいる。社員の意欲は認めるべきだが、この状態を看過してはならない。これを止められるのは経営者・上司しかいないことを肝に銘ずべきだ』、という意味の事が書かれている。
状況は違えども、周回遅れの私の頭と心に楔を打ち込まれた思いであった。

人を大切にする経営人財塾  浅野隆司

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