今何が起こっているのか(コンダクトリスク)

少し前に、某牛丼の会社の役員が、ある経営の授業において、「生娘をシャブ漬け戦略」と題して何も知らない若い娘を「無垢・生娘な内」に牛丼中毒にする等の不適切発言を行いました。これを授業に参加していた者が外部に公表したために、「大炎上」となり、その役員は退職にまで追い込まれました。

 今、ごく一部の限られた範囲内に対して行われた言動が、SNSなどにより、本人の意思にかかわらず、ネット上に公表されるような事態が生じています。

しかし、この発言自体は、セクシャルハラスメント的発言ではありますが、セクシャルハラスメントの法規制は、「職場における」言動を対象としていますので、この発言自体が直ちに法律に違反するわけではありません。しかし、法律に違反しなくても、会社にとっては大きな損害となる危険があります。

このような役職員の危険な行為について、コンダクトリスク、又はコンプライアンスリスクという概念が最近広まっています。

コンダクトリスクとは、まさに指導者、つまり役員が起こしうるリスクのことです。リーマンショックを受け課題となったもので、とくに金融機関において問題とされてきました。日本でも金融庁が2018年に「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方」においてコンダクトリスクに言及し始めました。

コンダクトリスクとは、役員や組織による、顧客・市場・社会・従業員・株主等のステークホルダーが期待する結果を達成できないリスクのことと言われています。

先ほどの某牛丼会社の役員の発言などは、まさにコンダクトリスクにあたります。

既に金融機関では、中間管理職に対してコンダクトリスクを念頭に、次のように行動指針を設定しています。

たとえば、野村グループ(2020年)は、次のように規定します。

「上席者は、・・以下の責務を負っています。

 自ら模範を示す

(行動規範の内容を自ら実践することで、チームを正しい方向へ導きます。)

 行動規範の浸透を図る

 (行動規範の内容を正しく伝え、チーム内への浸透を図ります。)

 安心感を提供する

 (部下一人ひとりの人格を尊重し、意見に耳を傾け、チーム内で率直なコミュニケーションを行うことができる環境づくりに努めます。)

 部下を成長へと導く

 (部下一人ひとりの個性を把握し、それぞれの状況に応じて継続的な指導と育成を行います。)

 公正は計画をする

 (能力、業務に取り組む姿勢、コンプライアンス意識、チームへの影響度など考慮して、公正に評価します。)」

このようなコンダクトリスクの考え方は、金融機関のみならず、中小企業にとっても重要な指針になると思います。

 (学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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