お誕生日会
人財塾では毎月、お誕生月のお祝いがあり、お誕生日の人はお礼と併せて、家族の話をすることになっていました。私は妻や子どもたち、猫やメダカの話をしてもよかったのですが、親父の話をすることにしました。
株式会社三富子ケースは、父が2代目で、私が3代目代表取締役を務める小さなものづくり企業です。
大切なものを仕舞う箱をつくることで、お客様に喜んでいただいています。
徽章や勲章など、比較的高価なものを仕舞うケースを中心に、多品種少量・受注生産で製造しています。
メダル、優勝カップなどの記念品も多く、球技やスケート、モータースポーツなど、国際競技大会のメダルを仕舞うケースも数多く手がけてきました。2019年には、世界選手権大会で名誉ある仕事に携わることもできました。
父は法学部の出身で、司法試験を目指し、学部卒業後もゼミに残って研鑽を積んでいました。合格はできませんでしたが、80歳になった今でも、法律の条文や判例をそらで言えるほどです。
父の座右の銘は「克己心」です。強い意志を持って物事に取り組む心を持ち、己に打ち勝つ強い意志を持っています。司法試験に合格したら検事になりたかったということが伺えます。
私が三富子ケースに入社して間もなく、親子喧嘩が絶えなくなりました。代替わりした後も、会話すらできない時期が続きました。
当時の私は、まったく親父を尊敬していませんでした。理由を聞かれると複雑な気持ちになりますが、厳しすぎる父に対する反発心だったのでしょう。時に人を見下すような言動が許せず、やることなすこと、すべてが受け入れられなかったのです。
そんな私たちの信頼関係が回復するきっかけとなったのは、数年前のことです。
受注先から品質面の改善と納期短縮を求められ、それに応えられないと伝えたところ、「契約違反・債務不履行による損害賠償も辞さない」と強く迫られました。
困った私は父に相談しました。答えは単純でした。「民法上の賠償責任がある」と。
途方に暮れて頭を抱える私に、父は一言こう言いました。
「いいか、商売は『注文をくれてありがとう』『作ってくれてありがとう』。このお互いの感謝の気持ちがなかったら成り立たない。おまえもそのことを忘れるなよ。」
そして最後に、「その注文は断りなさい。もうその人の注文は受ける必要はないよ」と。
大切なことを教えてもらった瞬間でした。
人財塾で学んだことのひとつに、「先代の社長を悪く言う人は、いい社長ではない」という言葉があります。
私も30代の頃は、父の言葉に耳を傾けることもなく、ひどかったと反省しています。
50歳になってようやく、一番身近な人から学ぶことができるようになりました。
今では、父と過ごす時間はゆっくりと流れ、他にはない大切な時間だと感じています。
そして私はただただ願います。
いつまでも長生きしてほしい。
人財塾7期生
株式会社三富子ケース
大畑仁人
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