松下幸之助の職業観と転職
パナソニックが早期退職の募集などで27年3月期までに1万人の人員削減を実施するといったニュースが流れました。25年3月末時点の世界全体の従業員数の約5%に相当する規模といった発表があり、「松下幸之助の会社が変わってしまったのか?」といったことが、メディアで放映されてビックリされた方もいるのではないかと思います。
一次情報が大切だと思い、大阪出張の際に、直接、パナソニックに勤める知人を訪ねてお話を聴きました。知人は、「私もあれだけ貰えるのであれば、迷うよね」
といったことでした。そして、松下幸之助の職業観についての話を聞きしました。
一般的には、幸之助は、大家族主義で定着率を重視する経営をしていたように思われていますが、必ずしもそうではないというのです。なぜなら、幸之助自身が夢を持って転職した経験があったからです。
「幸之助は9歳から火鉢店で丁椎奉公を始め、3カ月後には「五代(ごだい)自転車商会」に奉公。当時の自転車は、今の自動車のように高級品。幸之助はこの自転車店で約6年間奉公をしました。その後、幸之助は、当時大阪の街を走り始めた市電を目にしたことで、「やがて自転車は電車にとって代わられるだろう」と直感し電気に携わる仕事に関心をもち転職したのです。臨時でセメントの運搬工を務めた大阪電燈(のちの関西電力)に入社したのです。」
THE21オンライン「ベンチャー起業家・松下幸之助」に学ぶポイントの記事を要約
書籍でも幸之助は、下記のような言葉を残しています。
「自分には自分に与えられた道がある。天与の尊い道がある。どんな道かは知らないが、ほかの人には歩めない。自分だけしか歩めない、二度と歩めぬかけがえのないこの道。それがたとえ遠い道のように思えても、休まず歩む姿からは必ず新たな道がひらけてくる。深い喜びも生まれてる。」
道をひらく PHP研究所より引用
さらに、幸之助は、「大企業は余剰人員を持ってはいけない」とも言っていたそうです。大企業で、付加価値を生まない社員を滞在させていくことは、社会全体の生産性を妨げているといった考えだったとのことでした。
9月に登壇した学会人財塾で、
「定着率が高い会社が必ずしもいい会社とは限らない」
と言い、作家石川達三の次の言葉も引用しました。
「この畑では花が咲かせることができないと判った植物は畑を移し変えてやることだ。他の組織に移し変えて花を咲かせることが真の人間尊重である。」
もちろん、しっかりと育てる意思を持って関わった上です。
この話に、その後、受講生から様々なコメントをいただきました。
それなりに、共感いただいた方もいたと思います。
もう一つ事例に出したのは、すかいらーく創業者兄弟の次兄の初代代表取締役社長 茅野 亮(故人)の言葉です。前職のコンサル会社で茅野さんの親戚といった先輩コンサルのご縁で、直接、お話を聴く機会に恵まれました。
「外食産業は教育産業だ。短い期間だがドンドン人を育て世の中に排出している。一方、この業態で、この仕事は、早く仕事を覚えられるが何年もするとマンネリし接客が悪くなる。だから、数年で代わっていった方がいい。定着率は製造業に合った指標であり、業態により社会における役割が異なる」
と言われたのを、40年近く前のことが今でも覚えています。
以上のような背景があり、誤解を受けるようなメッセージですが、
「定着率が高い会社がいい会社とは限らない」
と言いました。
年功序列についても触れました。
産能大が行った「成果主義」と「年功序列」、どちらが望ましいと思うかの調査で、2025年度の新入社員に聞の年功序列を望む回答が56.3%。1990年度の調査開始以来、初めて過半数となり、成果主義を上回ったといった調査結果です。
これは、私の解釈ですが、社会的な背景を考えると下記のように整理しています。
高度成長期に確立した年功序列→夢のある年功序列
2025年新入社員調査での年功序列→あきらめの年功序列
その調査の定性データであるコメントでは、「成果主義は大変そうだから・・」といったニュアンスが並びます。かつて、管理者になり、報酬も高くなり、権限が大きくなり、自分がやりたいことが実現できるといった前向きのものではないのです。
転職も同じです。
幸之助の転職 → 夢のある転職
石川達三の転職 → その人を1回の人生で輝かせるための転職
茅野 亮の転職 → 教育して社会に送り出すため転職
残念ながら、又、Indeed Japan株式会社が実施した調査での海外先進国比較では、日本の若者の転職は「会社が嫌だから」の理由での転職が多く、米・英・独・韓の若者は、「高見を目指して」の転職が多いといった調査結果もあります。
もちろん、社員が嫌で会社辞める定着率が低すぎる会社は問題外です。しかし、社員の希望がある、成長できる、活躍できる転職であれば、必ずしも否定すべきではないのではないでしょうか?
企業として、社員の目線で愛情を持って送り出す転職は、むしろ歓迎すべきなのかもしれません。
藤井正隆
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