リスクマネジメントの考え方

新潟県が柏崎刈羽6,7号機の再稼働を条件付で認めることとなりました。ここでご紹介する内容は、原発の是非の問題ではなく、リスクマネジメントの考え方の参考としてこのテーマは分かりやすいと思ったからです。

 新潟県が、国に求めた再稼働の7つの条件は以下のとおりです。

①原子力の必要性・安全性について県民へ丁寧な説明の徹底すること。

②最新の知見に基づく安全性の再確認

③緊急時(避難・屋内退避)対応での国の関与強化

④避難道路・退避施設、豪雪対応の集中的整備

⑤使用済み燃料処分、武力攻撃対策、損害賠償の確保

⑥東京電力の信頼性回復

⑦UPZ(緊急防護措置準備区域)拡大と交付金制度の見直し

このような項目を新潟県が国に問うたのは、東日本大震災の際の原子力事故を目の当たりにし、もはや原発が絶対に事故を起こさない安全神話が崩壊したからです。つまり、各地域は、原発事故が起こる可能性を視野に入れて、リスクマネジメント対策を行い、それを確実にするために新潟県は国へ7つの条件を付けました。

いわば原発リスク対策は県にとってのBCP策定にあたります。と考えると、最も大切なことが抜けていることに気付きます。

BCPとは、ご承知のとおりBusiness Continuity Planの略です。肝はContinuityです。あえて日本語にすれば、持続性、連続性です。

つまり如何なる場合でも、企業の存続を維持し、仮に一時的に業務が止まることがあっても、できるだけ早く復帰させ、持続性を保ち続けることです。もちろん、その前提には、災害時等に社員やその家族の身の安全を図らなければなりません。しかし、身の安全を図った後は、はやく組織を復活させ、企業としての社会的役割は果たせるようにしなければなりません。つまり、災害等の緊急時の対応も大切ですが、より大切なことは、いかに早く日常を取り戻すことができるかにあります。

今回の新潟県の要望は、最悪の事態を想定し、避難経路の確保、対比施設の整備等は検討されています。しかし、福島の事故のように周囲に放射線が放出された場合に、いかに早くその地域を復活するかというBCP策定で最も大切な項目が検討されていません。

その理由は明確です。なぜなら福島は事故後15年経っても未だに放射線量が高く帰還困難区域が多く残っているからです。15年かけても復興ができていないため、これを検討項目とすれば、原発再稼働ができないからです。

しかしこれは原発の問題だけではありません。BCP策定をする場合に緊急時対応まではある程度リアルに想定し、対策を講じている企業は多いと思います。しかし、どのような最悪の事態が生じても、業務復帰をする方策まで検討しきれている企業は少ないと思います。大切なことは持続性を維持する方策をきちんと備えることです。

これは災害にとどまりません。企業の信頼を失墜するような出来事が起きたときに、どうやって信頼を取り戻すか、これもある意味のBCP対策です。最悪の事態を想定し、その場の対応を検討するだけでなく、その後どうやって復活し、持続させるかまで考える必要があるのです。

原発再稼働のニュースを見て、改めてBCP策定の大切さを考えさせられました。

(学会 法務部会 常任理事 弁護士 山田勝彦)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です