誰かの犠牲の上に成り立つ商いはやがて滅ぶ

結果として爆発的ヒットとなっている商業界から出版された「さらば価格競争」。

笹井商業界編集長の月曜日のアメブロより

誰かの犠牲の上に成り立つ商いはやがて滅ぶ

日本で流通する衣料品の国産比率をご存じでしょうか。
およそ3%。
つまり、ほとんどが海外、それも人件費コストの低い国で生産されています。
その生産国は中国からベトナム、ミャンマー、バングラデシュへと広がっており、まさに世界での「適地生産」を行っています。

労働集約型産業の典型である縫製業が、少しでも安価な労働力を求めて生産地を移動するのは日本企業だけの行動ではありません。
GAP、H&M、ZARA、FOREVER21、URBANOUTFITTERS、ABERCROMBIE&FITCH、GIORDANO、 HOLLISTERなどなど、ファストファッションを扱うアパレル企業すべてで同じように行われています。
名前は挙げませんが、日本のファストファッションも同様です。

問題なのは、現地労働者の方々の劣悪な労働環境にあります。

衣服産業史上最悪の悲劇

2013年4月24日午前8時45分、バングラデシュの首都ダッカ郊外の商業ビル「ラナ・プラザ」での悲劇が起こりました。
縫製工場が入居する8階建てビルが崩壊、工場作業員ら1127人が死亡、負傷者も2500人以上を数える惨事です。

衣服産業史上最悪の悲劇ですが、それをもたらしたのは地震でもテロでもありません。
「安さ」のみを追求する“消費者”という抽象化された存在です。
そこには、私もあなたも含まれているかもしれません。

しかし、業界は繁栄を続けました。
「死者が増えると企業の収益も増えた。ラナ・プラザでの惨劇の翌年、衣服産業の利益は3兆ドルという最高額を記録した」と、映画「ザ・トゥルー・コスト ファストファッション 真の代償」の監督、アンドリュー・モーガンは指摘します。

アンドリューは本作のプロローグでこう語っています。
「これは衣服についての物語。これは貪欲さと恐怖、そして権力と貧困の物語でもある。全世界へと広がっているので複雑な問題だ。一方で多くの人の心や手がつながっているというシンプルな物語でもある」
そのときスクリーンには、華やかなファッションショーの映像が映し出されていました。

毎日低価格で毎日生存競争

ドキュンタリー映画である本作は、さまざまな立場の関係者への綿密な取材により構成されています。
そこには多くの衝撃的発言がありますが、その一つを紹介します。
バングラデシュ・ダッカにある縫製工場の社長の発言です。

「西欧では『毎日低価格(EVERYDAY LOW PRICE)』と言っています。ですから毎日、私は顧客(ファストファッション企業)に絞られ、私の従業員は私に絞られているのです。
現地の店舗では競争が行われています。そうした企業はうちに来て、注文や交渉をするとき、「あの店ではこのシャツを5ドルで売っている。
ならば、うちは4ドルで売らなきゃいけない。価格を下げてくれ」と言います。私は従わざるをえません。
すると別の企業がやって来て、「あそこじゃ4ドルで売ってるぞ。じゃあ、うちは3ドルだ。3ドルで駄目なら頼まない」と言います。注文が欲しいので選択の余地がありません。
ここダッカでは『毎日生存競争(EVERYDAY HARD STRUGGLE FOR EXISTENCE)』なんです」

まずはできることから始める

アンドリューは映画の最後にこう締めくくります。
「私たちは物を消費することで幸せを求め続けるのか? 世界中が絶望的に貧しくなっているのに、このシステムに満足するのか?
 服の裏側にいる人々から目を背け続けるのか? それともここが新しい物語への転換点になるのか? 
私たちが着ているものすべてに人の手が関わっていることを忘れなければ変化が起きる。
私たちが直面しているすべての難題の中で大きすぎて手に負えないと感じている問題も、まずは衣服から取り組みを始められるかもしれない」
大きすぎて手に負えないと感じている問題ーーこのときスクリーンには、大きく原子力発電所が映し出されていました。

無論、これは衣料品の世界だけの問題ではありません。
“つくり手”である生産者・製造業者たちと、“使い手”“食べ手”である消費者の間に立つ“繋ぎ手”“伝え手”である私たち商業者は、誰もが観ておくべき一作でしょう。

「誰かの犠牲の上に成り立つ経営が正しいはずがない。やがて滅ぶ運命にある」とは商業界連載「世界に自慢したい会社」筆者であり、人を大切にする経営を提唱する坂本光司・法政大学大学院教授の言。
近著『さらば価格競争 非価格経営に取り組む21社の実践』では、非価格経営を実現するための8つのポイントを教えてくれています。
併せて読んでいただけると、進むべき道筋が見えるはずです。

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