【No4いい書籍紹介『1坪の奇跡』著者;小ざさ社長 稲垣篤子】
今週はゼミの授業の中で学んだ全国のお菓子メーカーさんの中から東京都武蔵野市の吉祥寺に1坪という狭小店舗で、しかも2種類の商品しか扱っていないにもかかわらず行列の絶えない和菓子屋さん;小ざさ2代目の社長が執筆された書籍をご紹介いたします。
この本は、現社長稲垣篤子さんの半生を描いた自伝になっています。稲垣社長の生まれは1932年です。小ざさの創業は1902年生まれのお父様;伊神照男さんが小ざさの前身となるナルミ屋を1931年吉祥寺に設立したことから始まります。
ナルミ屋は順調にお客様が増えていきました。そんな時代の流れの中で、照男さんは奥さんにお店を任せて満州に渡り商売を進めますが、戦争、お店をたたんで疎開、そして敗戦を迎えます。音信不通だった照男さんは終戦2年以上経って満州から帰国。激動の時期を挟みながらも1951年に小ざさが誕生します。
本書では、父;照男さんがたどり着いた究極の羊羹ともいえる味へのこだわりや、職人として娘;篤子さんに受け継いでいく姿に圧倒されるばかりです。父娘の親子関係と職人としての関係、誰にもまねできないほどに極めた羊羹の味を守り続ける姿が目の当たりにでき、どんどん引き込まれていく内容となっています。
特に印象的だったことをいくつか挙げてみます。
ひとつ目は、なんといっても羊羹の味へのこだわりです。職人として常に感性を磨き続け、マニュアルではなく五感を最大限に追求した羊羹作りは想像をはるかに超え、日々真剣勝負の世界です。一般的に羊羹は普通の羊羹、芋羊羹、錦玉、水羊羹の4種ありますが、小ざさでは、“4種の交点をつかまえる味”を目指しているのです。その感覚をつかむことの難しさの一端を本書では感じることができます。
ふたつ目は、商売を進めるにあたっていわゆる仕入先を家族や共同体と考え、小ざさの考え方をしっかりと伝えたうえで、ともによい品質を守っていることです。例えば小豆問屋さんとの品質へのこだわりや、もなかの皮をつくっている外部の職人さん、自然由来の材料にこだわり続けるもなかの包装紙メーカーさん、小豆を練る際になくてはならない炭メーカーさんなど、小ざさ社内ではやらない・できない仕事をしてくれるパートナーとの関係は、良いものを作り続けるためにあり、決して価格や便利な商品に安易に変えることはありません。
みっつ目は、約30年前に熱心な養護学校の先生のお誘いがきっかけとなり障がい者雇用を始めていることです。本書執筆の時点では約30名の社員中3名が障がい者です。しかも助成金の申請は敢えてすることなく、一般社員としてのお給料となっています。
この本は、戦前戦後という厳しい時代背景の中、創業者;伊神照男さんの思いが生んだ羊羹という芸術、そして実の娘である稲垣篤子さんが高いレベルで受け継ぐこと、言葉ではなくからだや感性で体得して初めて到達する世界を感じることができます。
また文章は洗練されていて言葉が豊かです。女性のさまざまな立場や視点としての思いが詰まっていると感じました。何を大切にして生きるのか、とても参考になる書籍ですので、是非多くの方に読んでみて欲しい本です。
***補足***
この投稿では2012/4~2018/3までの6年間法政大学大学院 政策創造研究科 坂本研究室で経験した【いい会社視察】・【プロジェクト】・【授業で学んだこと】を中心に、毎週火曜日にお届けしております。少しでもお読みいただく皆さまのお役に立てれば嬉しい限りです。個人的な認識をもとにした投稿になりますが、間違いや誤解をまねく表現等あった場合はご容赦いただければ幸いです。(桝谷光洋)
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