1400年培ってきた日本人の心を蝋燭でつないでいく会社

 5代目の阿久澤社長は、32歳で入社した時のことが今の自分の原点になっているとお話しくださいました。入社してすぐ、新製品が大ヒットして商品が足りなくなりました。工場に「少しぐらい欠けていてもいいから、出荷を優先して欲しい」とお願いしたところ、「何を言っているのですか!そんな商品を売るために私たちは仕事しているのではありません!」と怒られ、その社員さんは泣き出したそうです。他の社員も同じ姿勢でした。他社での修行で学んだ生産性よりも、「人の商品に対する心を大切にしてきた会社」なのだということに気付かれたそうです。

 その会社は、静岡県富士宮市にある株式会社東海製蝋、明治10年に創業された蝋燭製造会社です。「人の商品に対する心を大切にする姿勢」は、商流の選択にも現れています。30年ほど前に大店法が施行され、大型店優位の時代になり、メーカーには大量供給に耐えられるだけの製造量が要求されました。しかし、先代はこの商流では「良い商品は売れない、生き残っていけない」と判断され、付加価値の高い商品を扱ってもらえる仏壇仏具専門店に商流をシフトする決断をされました。その結果、現在3000店の専門店と取引があり、約600種類の商品で売上は年間7億円、国内シェアは5%、専門店市場に限ると40%のシェアです。売上、利益ともに微減の傾向ですが、量を追わず地道に末永くモノづくりを続けていく方針です。

 その方針は「私たちの生きがい」として記されています。「量を追わず、質を捉えていきます。安定した品質に支えられた、安全な灯が醸し出す美しさや安らぎに価値を見い出してくださる感性豊かなお客様に、本物のローソクを提供し続けていきます。株式会社東海製蝋 社員一同」

 本物のローソク作りは、安全性を追求した代表商品となっています。高齢化社会が進み、火災を懸念して電気蝋燭が普及するようになりました。蝋燭には、炎で周りの不浄を清め、苦しみから離脱するために煩悩の闇に光を当てる意味があります。また、蝋燭が無いとお線香をあげる風習が途絶えてしまいます。その文化を無くしてはならないという思いから、特許燭台「もえ」が生まれました。熱伝導率の良い特殊な金属を使い、ロウが最後の一滴まで完全燃焼する燭台です。短蝋燭の「リュミエール」と組み合わせると8分間で見事に燃え尽くします。

 社員を大切にする姿勢は、「CLIMING?」(のぼってますか?)というユニークな社是に表れていました。「有限ある人生を充実させるため、一歩一歩高みを目指してのぼってゆくことを日々の指針とします」という意味です。社員は35名(工場20名、営業5名、事務10名)、離職率は低く、20年前から一人減ると一人入社するという形です。賃金は静岡県の平均賃金を上回るレベル、成果給や能力給は採用していません。年間休日は105日、一日8時間労働で残業は無く、有休消化率は50%程度です。福利厚生は、社員旅行・歓送迎会・忘年会・BBQに寿司券の配布などがあります。

 人の商品に対する心を大切にし、日本人の心を蝋燭でつないでいく会社に出会たことに感謝いたします。東海製蝋さんをこれからも応援していきます。

人を大切にする経営人財塾 中川 淳一郎

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