敬天愛人と事業経営

「敬天愛人」は西郷隆盛の座右の銘として知られる。曰く「道は天地自然の物にして、人はこれを行うものなれば、天を敬するを目的とす。天を敬い人を愛し、天を知り、己を尽くし、人を咎めず、我が誠の足らざるを尋ねるべし。」と。西郷隆盛が向き合う「天」に、他力本願的な要素はない。「自然な自分」になることができれば、それが敬うべき天なのではないかと思う。そのように考えると、「自然な自分」とは何かを知らなければならない。大きなテーマである。

幕末の戊辰戦争で、現在の山形県となる荘内藩を制圧した後の政府軍の寛大な対応に驚き、感謝した荘内藩の藩主酒井忠篤とその家臣70名は、西郷隆盛のいる鹿児島に半年間「留学」をする。その際に、西郷との対話の中で書き記されたものが「南洲翁遺訓」である。「正しく生きるという覚悟を普段から心に決めて生きていない人は、何か突発的なことが起きるとうろたえ騒いで、正しい判断、対処ができない。」、「才能に任せてやる事業は危うい、どんな事業もその根幹で行う人の人格が重要である。天下というものは、誠がなければ動かないし、才能がなければ収まらない。」など、事業経営に役立つ言葉も多く残されている。

最近、良い経営をされている企業経営者の方にお会いする機会が多いが、その方々に共通することは、経営者としての強い責任感を常に持ちながらも、いわゆる「不自然な力み」がないことである。人に尽くし、社会に尽くすことを、気持ちよいほど素直に自分の生き方の基本にしているからであると思う。「天を敬い人を愛す」という言葉の通りである。

人を大切にする経営学会の大学院事業、経営人財塾に参加して早いものでもう半年がたった。この半年間の自分を振り返って、自分が行おうとする仕事で人々に貢献できるために「己を尽くす」ことができているかと問われると、反省すべきところ大であるが、人を大切にする経営を実践しようとする仲間や講師の皆様に学び、「自然な自分」を知る努力を継続し、「敬天愛人」を実践していきたいと強く思う。

「南洲翁遺訓」出版の由来については、荘内南洲会の下記リンクで説明されている。
http://saigo.ganriki.net/ikun.html

(人を大切にする経営学会 経営人財塾 野村国康)

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