バスの運転手さんと赤ちゃん

バスの運転手さんと赤ちゃん

バス停からいつものバスに乗りました。バスは座る席はなく、私は前方の乗降口の反対側にたっていました。

次の停留所ではどっと多くの人が乗り、バスの中はあっという間に満員になってしまいました。立ち並ぶ人の熱気と暖房とで、バスの中は息苦しい状態になってしまいました。

バスが走り出した時、後方から赤ちゃんの鳴き声が聞こえました。

泣き叫ぶ赤ちゃんを乗せて、バスは新宿に向かいました。バスが次の停留所に着いた時、何人かが降りはじめました。

最後の人が降りる時、後方から「待ってください...、私降ります」と、若い女の人の声が聞こえました。

その人は立っている人をかき分けるように、前の方に進んできます。泣き叫ぶ赤ちゃんの声がどんどん近くなってくるので、あのお母さんであることは直ぐわかりました。

泣いている赤ちゃんを抱いたお母さんは運転手さんの横まで行き、お金を払おうとしました。すると運転手さんは「目的地はどこですか...」と聞いています。

そのお母さんは、小さな声で「新宿までですが、子供が泣くので、ここで降ります...」と答えました。

すると運転手さんは「ここから新宿まで歩いていくのは大変です。目的地まで乗っていってください...」と、そのお母さんに話しました。

そして、突然マイクのスイッチを入れたかと思うと「皆さん、この若いお母さんは新宿まで行くのですが、赤ちゃんが泣いて皆さんにご迷惑がかかるので、ここで降りるといっています。子供は小さい時は泣きます。赤ちゃんは泣くのが仕事です。どうぞ皆さん、少しの時間、赤ちゃんと、こちらのお母さんを一緒に乗せて行ってください」と話したのです。

何秒かが過ぎた時、一人の男性の拍手につられて、バスの乗客全員の大きな拍手がバスの中に沸き上がりました。

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