老舗企業の「出現」を地域で祝おう~2019年は1685社が100年企業に
老舗企業の実態調査を行っている帝国データバンク情報統括課の西本実生さんに「(帝国データバンクの)データで読み解く百年続く企業の条件」を演題に講演してもらった。老舗をめぐっては伊那食品工業の塚越寛最高顧問も老舗の経営こそ理想の経営と著書の「年輪経営」などで明らかにしており、その概要を知ることは経営に有用だろう。そこで簡単にお伝えしたい。
西本さんの話は東京都診断士協会の老舗企業研究会とファミリービジネス研究会が合同で7月5日に開いた定例会であった。データの母体は同社の企業概要データベース「COSMOS2」。現在、活動しているとみられる国内企業240万社のうち147万社を収録している。データは同社の1700名が足で稼いでおり、年1回のメンテナンスでデータの精度を高めている。今回は2018年11月現在のデータ。
老舗企業とはここでは「創業100年以上の企業」と定義している。それによると日本の老舗企業は33,259社ある。老舗企業数は年々増加しており、2019年も1685社が100周年を迎え、老舗企業の仲間入りをする。上場企業でいえば2019年に100周年を迎えるのは川崎汽船、オリンパス、住友商事などである。
老舗企業の出現率(企業数全体に占める老舗企業の割合)は2.3%。上場している老舗は532社あり、出現率は14.1%。また売上高500億円以上の老舗出現率は15.1%である。都道府県別では、京都府4.73%、山形県4.68%、新潟県4.29%の順。ちなみに全企業の平均年齢は35.6歳、日本人の推計平均年齢は47.0歳である。
老舗企業が多い業種のトップは貸事務所等、近年ランクが急上昇している。調査上の業種の定義に基づき、当該企業は本業が別にあるが、副業の不動産賃貸の売り上げが半分を超えたため、同社がその業種を「貸事務所」へ変更していることが多いようだ。
同社の2008年の老舗企業アンケート(調査対象4000社、回答企業814社)によれば、老舗の8割は家訓、社訓、社是をもっており、多い言葉は、感謝、勤勉、工夫、倹約、貢献で、頭文字をとると、カ、キ、ク、ケ、コ になるという。
また老舗の多くは創業時の経営をそのまま継承しているのではなく、事業を継続していくために変革を続けている。同アンケートによれば「販売方法」は78.7%の老舗が変更している。以下「商品・サービス」は72.6%、「主力事業の内容」は56.3%、「製造方法」は55.3%が変更している。「家訓・社訓・社是」も28%が変更している。
最新のデータから老舗の経営の特徴を財務面から見ると、売上総利益率は老舗22.81%と全体の27.94%をかなり下回っているが、売上高経常利益率は1.43%と全体の0.02%を大きく上回っている。安全性については自己資本比率が高い半面、効率性については棚卸資産や固定資産の回転率は低いという特徴がある。副業やストックが老舗の本業継続の強みになっていることがうかがえる。
また財務以外では①事業承継②取引先との関係(信用、地域密着など)③番頭の存在、が老舗の経営の強みになっている、という。
このうち事業承継については、同社の後継者不在企業動向調査(2018年11月)によると後継者がいる企業は3社に1社だが、1912年以前創業の企業では同族の後継者が46.6%、非同族5.5%で、半数以上に後継者がいる。またBCP(事業継続計画)の策定は老舗企業で進んでいるという。
以上が概要。データから読み解く老舗企業の実態を読者はどう受け止められただろうか。会場からは、本業の収益性が低い、資産の効率性が低いのはなぜだろうか、という質問があった。上場企業の標準的な評価基準であれば、ダメな企業の烙印がおされそうだが、私はこの特徴にこそ長寿経営の秘密があるのだろうと推察している。
日本は世界でもっとも老舗企業が多い老舗大国でありその存在は日本の強みであろう。老舗の多くは地域企業であり、従業員や取引先、顧客など関係者も地域住民であることが多い。その意味では地域の宝でもある。私は「地域の中に老舗企業が出現したら自治体が祝ってあげても良さそうなぐらいである」と思いながら西本さんのお話を聞いていた。
神原哲也(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関・日本記者クラブ会員)
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