『北浜銀行』

 約100年前から120年前、大阪・北浜に、大阪株式取引所・堂島米商会所の機関銀行であった「北浜銀行」という非常に優秀な投資銀行、ベンチャーキャピタルがありました。その頭取に、三井銀行大阪支店長であった岩下清周翁が就任。岩下翁頭取就任後、同行は、阪急電鉄、近畿日本鉄道、森永製菓、大林組、トヨタといった現在のわが国を代表する企業や、ガス事業・電気事業といった国益に資する事業を育成しました。時には、岩下頭取自ら、支援している企業の社長に就任して(阪急電鉄も近鉄もそうです)、陣頭指揮に立ち、再生を行い、事業拡大を行って、わが国を代表する企業群に育成していきました。
 阪急電鉄は、稀代の天才的経営者であった小林一三翁が起業したと誤解されている方が多いですが、元々は、倒産しかかっていた箕面有馬電気軌道(阪急電鉄の前身)の株式を北浜銀行が引き受けて、岩下頭取が社長に就任したという経緯があるのです。岩下頭取が三井銀行大阪支店長時代に新人行員として入行してきた小林一三氏が当時浪人中だったので、まずは監査役として入社させ、その後、専務となり、社長となって、様々なアイディア(分譲住宅の割賦販売、箕面動物園、宝塚温泉、宝塚歌劇、阪急百貨店、カレーライスの普及、阪急ブレーブス等々)で事業を拡大し、私鉄経営モデルを築き上げたのです。
 近畿日本鉄道(当時は大阪電気軌道)も当時、大阪市内だけを走っている小さな鉄道会社でしたが、奈良まで路線を伸ばしていきたいと考えていました。近鉄を支援していた北浜銀行の岩下頭取が社長を兼任し、生駒山を迂回するルートではなく、生駒山にトンネルを掘って、奈良まで進出しようと計画し、当時ベンチャー企業で、同じく北浜銀行が支援していた大林組にトンネル工事を依頼しました。しかし、大落盤事故で152名が生き埋めになり20名の犠牲者が出て、近鉄も大林組も経営危機に陥ります。近鉄の金森取締役支配人は生駒山の山頂にある「宝山寺」にお賽銭を借りに行き、急場を凌ぎ、後に近鉄の第1号株券を宝山寺に奉納しました。大林組は、近鉄による建設費の支払遅延から一時経営危機に陥りましたが、そのような状況にあっても、大林組は手抜きをせず最高の資材を使って工事を進め、検査に来た監理局員がその質の高さに驚かされ、「男・大林」と言わしめた、というエピソードが残っています。ここから大林組は四大ゼネコンへ駆け上がることになります。近鉄は、悲願であった奈良への延線が出来、これは宝山寺さんのおかげである、と考え、信者さんや檀家さんたちのために、宗教電車になることを考え、西大寺のある大和西大寺駅、東大寺のある近鉄奈良駅、伏見稲荷のある伏見駅、東寺、橿原神宮、伊勢神宮・・・と路線を拡大し、私鉄で最大の路線を保有するまでになりました。因みに、当社第1号ファンドのお客様が宝山寺さんでした。何かの御縁としか思えません。
 他にも、森永太一郎翁の作ったお菓子を食べて、その美味しさに感動して支援するようになった森永製菓や、個人的に豊田自動織機創業前の豊田佐吉翁を支援していたり、岩下頭取のベンチャーキャピタリストとしての活躍は、目を見張るものがあります。
 残念ながら、北浜疑獄事件(政争が原因)による岩下翁の逮捕の影響により、金融技術の未熟さが露呈し、同行は、約20年という短い実働年数でその幕を閉じました。しかしながら、現在のわが国に最も必要な“金融”の役割の一つとして、この北浜銀行が果たした、次の時代を担う事業・心豊かな社会をつくる事業を育成するための“投資銀行”としての役割があげられると考えます。金融技術としては未熟であったとしても、岩下翁の金融マンとしての精神は、今日において、もっと評価されるべきではないかと思っております。
 私は、「21世紀の北浜銀行・燦キャピタルマネージメント株式会社」代表取締役として、岩下清周翁の精神を学び、北浜銀行の果たした役割を想い、そして、経営人財塾で学ばせて頂くことを身に着け、消化し、次の時代を担う事業、心豊かな社会をつくる事業、企業群を育成していきたいと考えております。

経営人財塾第二期生 前田健司

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「『北浜銀行』」への1件のフィードバック

  1.  私も岩下清周の事を調べています。岩下清周は北浜銀行事件でいろいろな批判や誤解を受け社会から葬られましたが、最近は再評価されてきて喜んでいます。ただ未だに虚業家と批判する論調もあり残念に思っていましたが、この記事を見て意を強くしています。
    追伸
     岩下清周が工業立国を志して一身を賭してきたことは紛れもない事実ですが、若い時は官尊民卑の意識が強かったそうですが、矢野次郞に会うことによって商業も国作りに重要である事を理解したそうです。そのことを岩下自身が雑誌に寄稿している記事を見つけました。