善悪で判断し、利他的に行動してきた結果、売上高が増えてきました~十河孝男徳武産業会長

 徳武産業の十河孝男代表取締役会長の講話を11月13日に東京都中小企業診断士協会の「人を大切にする経営研究会」で聴いた。学会員の多くの方がその物語をご存知だろうが、久々の登場なので、そのままお伝えしたい。「靴がはけるようになった」「人生が変わった」など同社の事業のすばらしさを物語る利用者の感謝のメッセージの例は長くなるためやむをえず外した。
 十河会長は、「善悪で判断し、利他的に行動してきた結果、売上高が増えてきた」と話した。「(履く靴がない方のためのオーダーメイドである)パーツオーダーの売上高は全体の1%、それに費用の10%をかけている」と採算度外視のデータを明らかにした。
 ドラマ「陸王」で見られるようにスポーツ用品メーカーが五輪選手の競技シューズを採算度外視で開発するのはなぜか。社員のモチベーションアップ、会社のブランディングになるからだ。徳武産業の取り組みはそうした企業の大小を問わない経営の方程式に合致しているうえ、大手などが見捨てていた「弱者」にフォーカスして、コツコツと取り組んできたことに発展の要因がありそうだ、と感じた。【神原哲也(日本記者クラブ会員、中小企業診断士・認定経営革新等支援機関)】
十河孝男氏の歩み】  
1984年 徳武産業(香川県さぬき市)社長に就任
1995年 あゆみ(介護用)シューズ
2001年 パーツオーダーシステム
2011年 坂本光司法政大学教授(当時)が「日本でいちばん大切にしたい会社3」に取り上げる。
2012年 「第2回日本でいちばん大切にしたい会社大賞審査員特別賞」受賞
2015年 代表取締役会長
十河孝男氏の講話の要旨(一部意訳)】
 35年前 徳武産業の売上高の95%はアキレスの縫製の仕事でした。誰もがアキレスの仕事がなくなるとは思わない中、私は労働集約型産業の海外移転が進む状況に危機意識を抱きました。 
 私はアキレス以外の事業に光をあててそれが全体の5%から15%、25%、35%へと拡充していきました。そこへアキレスが四国の外注先を集めて工場の海外移転の決定を伝え、仕事を出せなくなることを伝えてきました。
 1年後に3分の1、2年後に3分の1、3年後に3分の1ずつカットしていくとのことでした。真摯な条件でしたが、期限付き死刑宣告のようなものでした。他社との取引を増やしていた徳武産業は仕事をほかの会社に回すよう依頼して2年でこの事業から撤退しました。
 徳武産業が狙いを定めたのがルーム用シューズ、旅行用スリッパとポーチでした。ルーム用シューズについては地元にあるセシールとの取引、また旅行用スリッパとポーチはJTBとの取引により成長していきました。
ですが6年後、セシールは担当者が変わると価値観がかみあわなくなりました。大企業のOEMは担当者次第、不安定であると強く感じて、OEMからの撤退を決意しました。
 その後 特別養護老人施設を運営する友人からお年寄りの履物がないことを聞きました。しかも、右と左のサイズが異なる靴がほしい、という声がありました。そこで片方の靴だけを両足の半値で売ることにしました。
 全国の靴メーカー1万2000社(当時)がどこもやっていなかったのです。特許がとれると言われましたが、私は業界をつくっていきたいと思って特許はとりませんでした。
 その結果 15社が参入、現在では年間300万足の介護シューズが生産されています。徳武のシェアは半分以上。介護シューズは全国1600カ所で売られるようになっています。
 世の中にいろんな症状で靴がはけなくて困っているひとがいて、当社を訪ねてくるようになりました。脳性麻痺、リウマチ、外反母趾、糖尿病などで足や指が変形しているのです。
 ですが、日本にはそのような方の靴をつくる技術はありません。千葉県にドイツの靴マイスターがいることがわかり、来てもらうようにしました。8年になりますが、ノーと言ったことはありません、不具合も出ていません。
 お年寄りの身体に問題に対応しているとお年寄りの心の問題にも気づきました。そこで始めたのは「真心のはがき」。感謝の言葉を手書きして靴の底にしのばせます。また品番ごとに違うアンケートはがきも付けます。お誕生日にはカードとプレゼント(日本手ぬぐい)を送ります。年間3万件の感謝のメッセージがきています。
 地域に寄り添うことも大切。企業は地域に迷惑をかけていることに気付き、償いをしないといけないと思いました。地域清掃を始めました。車は周辺の植物や田んぼに排気ガスをかけないよう前向きに駐車します。近くに学校ができ、生徒が使いやすいようなトイレをつくりました。地域に必要とされる会社になりたいと思っています。
経営計画に力を入れています。全員が計画を立て共有します(経営計画書の中に各人の計画=見開き2㌻=を盛り込んでいる)。すると売上高が増えていき、社長になった時の8,200万円が直近は25億6,000万円になっています。経常利益は2億5,000万円です。
 また「謙虚であること」を大切にしています。利益が出たら決算賞与を出します。また2017年には社員全員でハワイ旅行に行きました。75名のうち70名が参加しました。
 採用には困っていません。辞めません。親子、夫婦、兄弟が10組います。靴の大手メーカーから転職してきてくれた方もいます。国立大学出身の女性がパーツオーダーの製造現場にいます。困っているひとの役に立ちたいからです。

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