事業承継者は「継栄」する覚悟が必要
昨年、2021年の中小企業白書では、事業承継について多くの紙幅を割いていました。東京商工リサーチによれば、休廃業・解散件数は2019年までは4万件台半ばでしたが、2020年には約5万件となり、昨年2021年は4万4377件で、再び4万件台半ばに戻りました。2020年の異常値はともかくとして、ここ数年平均4万5000件程度の企業が休廃業・解散をしていることになります。今後、団塊世代の高齢化に伴い、より多くの企業が休廃業・解散をしていくことが予測されます。このように企業が消滅している理由の主たる部分は、後継者不足であることは明確です。
一方で経営者交代数は、年間約3万6000件前後と言われています。規模の大きい会社では、比較的早い時期に交代するものの、交代後の経営者年齢は比較的高めと言われています。一方で規模の小さい会社では、交代時期は遅くなりますが、交代後の経営者年齢は、規模の大きい企業に比べて若返る傾向があるようです。先代の経営者が偉大であればあるほど、事業を引き継ぐ側はプレッシャーがかかるもので、引継ぎを躊躇してしまうのも分からなくはありません。しかし、一から企業を創業するのは並大抵の能力がなければできませんが、それに比べると事業承継者は創業者よりも有利な条件で経営者となれることもまた事実です。
さりながら事業を承継する者は、単に事業を引き継ぐだけではその企業の先はありません。事業承継者の経営は、引継ぎ、そして更に繁栄させることが必要です。中小企業白書では、承継者が承継後5年程度、意識して実践した取組は、①新たな販路の開拓、②経営理念の再構築、③経営を補佐する人材の育成、④新商品・新サービスの開発、⑤新事業分野への進出、です。そして特徴的なことは、事業承継した際の経営方針の質問に対して、先代経営者の取組の承継・強化(43.3%)、新たな取組に積極的に挑戦(40.3%)、どちらとも言えない(16.4%)と答えた者の中で、「どちらとも言えない」と答えた人は、承継後意識して実践した取組が低く、その3分の1は「特になし」と答えていることです。
このことは、承継時に明確なビジョンを持っていない承継者が引き継いだ後は、成長する可能性が低いことを示しています。
(学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)
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