「働き方改革」を問う
「働き方改革」は2016年、安倍首相が内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置したことが始まりです。2015年に電通の新入女性社員(24)が過労自殺したことを契機に、働き方がクローズアップされました。現代の新卒大学生が就職において重視する要素は、出世や高年収よりも労働時間や有給休暇取得が上位にくるようになってきました。かつて1980年代の働き方では、がむしゃらになって24時間働くことを美学とする風潮がありました。時代の流れとともに社会常識が大きく変わっています。
電通といえば、「鬼十則」という社員としての行動規範が社外に知られるほど有名でした。
1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2.仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
4.難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5.取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…。
6.周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
7.計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8.自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
9.頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、それがサービスだ。
10.摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
現代においては時代錯誤と思われる表現もありますが、すでに全社員に浸透している社風をどのように変えたのでしょうか?電通自身が公表しています。
働き方改革 電通の狙い(出所:2018年2月の電通ニュースリリース)
目的 一人ひとりの社員が自己の成長を実現実感できるようにする 目標 毎日のコンデションチェック 毎月のインプットホリデー導入 年間100時間以上の学びの機会 取組 ノンコア業務の代行 業務プロセスの視覚化 在宅勤務 人事制度 オフィス設備のIT化 成果 年間一人当たり総労働時間=2166時間⇒2031時間 有給休暇消化率=56%⇒64%
働き方改革を、単に長期労働時間の是正とせず、目的を明確にすることで成果の出る行動を促したことがわかります。
実は、厚生労働省のホームページをみても、施策の運用を以下の通り示しています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。(出所:2022年2月の厚生労働書ホームページ 「働き方改革」の目指すもの)
健康を害してまで働くことは論外ですが、働きたい人の行動を制限するやりかたは本末転倒と思えます。長時間で働いてはいけないのではなく、多様な働き方の創出が求められていると考えてよいのではないでしょうか?(学会会員:根本幸治)
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