社員の給与が差押えられたら

社員の給与が差押えられたら

 あまりあってほしくないことですが、第三者から社員の給与を差し押える旨の通知が会社に届くことがあります。たとえば、社員がローンの返済ができなかった場合や税金を滞納したような場合です。

 差押通知がきた場合、会社はどう対応すればいいでしょうか。

 このような通知が来た場合、まず注意をしなければならないのは、それが一般の企業等からの差押えなのか、行政からの差押えなのかによって対応が異なることです。

 金融会社など一般の企業が差押えをするためには、裁判で判決を得て、その判決に基づくことが原則です。ただし公正証書は判決と同様の効力があるので、公正証書が作成されている場合は、判決がなくても差押えがなされます。いずれも裁判所から差押えの通知がきます。

 これに対して、行政の差押えは、本人に対して督促状を行政から出すというような要件はありますが、裁判をすることなく、直接行政庁から差押えの通知が来ます。

 一般の企業からの差押えは、その企業等が本人に対して通知をした時から1週間後に取り立てができるようになります。一方、行政の場合はそのような限定はなく、会社への通知が来た後は、いつでも取り立てができます。

 会社としては、差押えがあった場合は、会社は本人に対して支払をしてはならない義務を負います。ただし、まだ支払期限になっていない場合には、支払期限まで支払う必要はありません。

 また複数の会社から同日に差押えを受けた場合には、会社としてはどこに支払えば良いか判断ができないため、供託という手続きをとらなければなりません。

 次に気をつけなければならないのは、いくらまで差押えの対象となるか、という点です。

企業等からの差押えの場合、本来給与は本人と家族の生計を維持するためのものですから、原則として給与の4分の1しか差押えができません(ただし、給与額が一定程度以上だとそれ以上の差押えができることになります)。この差押えは、名目額から所得税、住民税、社会保険料、通勤手当を差引いた手取額を前提に計算されています。ただし債権者が養育費等のために差押えをした場合は、給与の2分の1まで差押えができます。

これに対して行政からの差押えの場合も同様に家族の生計の維持を目的として、一定の金額を差押えできないとしていますが、その計算方法が異なります。

行政の差押えの場合は、名目額から所得税、住民税、社会保険料を差し引き、そこから生活費として(100,000万+45,000×本人以外の家族の人数)を差引き、さらにその計算の結果の数字に0.2%を架けたものを差し引きます。この0.2%は体面維持費と呼ばれています。体面維持とはなんともいえない命名です。この計算の結果が差押えの対象となります。

このように給与の差押えの場合には、計算が複雑になりますので、一般の差押えは、裁判所へ、行政の差押えは担当行政へ確認してからお支払いをすることをお勧めします。

一般の差押えの場合は、事前に判決や公正証書を作成していたりするので、本人は自覚している場合が多いですが、行政による差押えの場合には、本人への督促をして一定期間が経てば差押えができるので、本人にとっても突然差押えられたというようなことが起きます。

このようなことがないよう、プライベートなことであっても、債務の不払いや税金の滞納等が生じないよう社員に対して注意を喚起することをお勧めします。

 (学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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