パワハラは、「あおり運転」と同義

パワハラは、「あおり運転」と同義

 この表題は、日経メディカルデジタル版(2022年10月3日)に掲載された記事の表題です。少し、ドキッとする題です。

 あおり運転は、昨今重大な死亡事故等も発生し、「妨害運転罪」として2020年6月30日から施行されています。単なる「あおり運転」のみでも、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。加えて著しい交通の危険を生じさせた場合には、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金となり、どちらも運転免許の取消しとなります。以前から事故等があり、被害者がでれば、危険運転致死傷害罪がありましたが、単に「あおり運転」をしただけで、刑事罰を受けることになりました。

 パワハラがそのような重い犯罪と同じだというのはどうしてなのでしょうか。

 日経メディカルという雑誌の性格上、医療従事者が読まれる記事が掲載されていますが、筆者は「医療現場でのパワハラは、患者安全の観点から重大な脅威となる」と指摘しています。

 具体的な例示として、実際にあった話だそうですが、外科手術において、執刀医の指導医師が、手術に助手として立ち会ったものの、手術中すさまじい目つきで執刀医をにらみ、一言もしゃべらず、執刀医の質問にも答えずに無視をし続けたというのです。

 パワハラが重なると、パワハラを受けている人は強度のストレスで職場でも家庭でも常に注意が散漫となり不安定な状態となります。そのような不安定で集中力を欠いた状態での手術は、場合によっては、患者に生命の危険が及ぶほどであり、結果的に第三者を巻き込む事故(医療事故)を起こす可能性があるという意味で、「あおり運転」と同じではないかと筆者は主張しています。

 これは医療従事者に限りません。確かに事業内容によってはお客様の生命、身体に対して直ちに被害が及ぶようなことはないかもしれませんが、パワハラにより社員が注意散漫になり、ミスをすることによってお客様に何らかの被害を与えてしまうことは容易の想像できます。

 パワハラは、実際にパワハラを受けている社員、その職場環境にいる社員にとって問題なだけでなく、その場にいないお客様にとっても問題となってしまうことを認識していなければなりません。

 その意味で、パワハラは「あおり運転」と同義、という指摘は的を得ているのだと思いました。

(学会 法務研究部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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