コンプライアンスの在り方

坂本光司先生は、常々「判断に迷ったら、正しいか、正しくないかで決断しなさい」とおっしゃっています。

 しかし多くの現場ではそれに徹することがなかなか難しいと思われています。

 人を大切にする経営をしようと心がけていても、「人を大切にすることが第一、そのためには会社を守らなければならない、だから今回は『正しさ』に目をつぶろう」などという迷いが生じてしまうかもしれません。

 J事務所の2回目の記者会見はまさにそのような思考が経営陣にあったのではないか、と思われます。多くのタレントをかかえるJ事務所としては、できるだけ早く、傷が小さい内に問題を解決したいという心理が働くのは想像できるところです。

しかし、そのためか、厳しい質問をするであろう記者の質問は「NG」として、質問を制限してしまいました。

発言を制限すること自体は、何らの法律にもルールにも反しません。

しかし自ら記者会見を開催し、記者を呼んだのであれば、記者に質問をさせないという姿勢は、「正しくない」姿勢です。このためにJ事務所はレピュテーション(企業評価)を下げてしまいました。

更にこの問題が報道されるやJ事務所は10月5日付けにホームページにおいて「弊社は(コンサルティング会社を)雇った責任があると言われれば、その通りであり」と釈明しています。

しかしこの点でもその対応は「正しさ」に欠けます。この文書には、事前に会社役員が「NG」リストの存在を知り、そのような対応は「ダメですよ」と伝えていたと記載されています。もしそう言ったのであれば、当日、実際に記者から質問指名が不適切であると指摘を受けた段階で、司会の指名方法を正すべきでした。

しかし、経営側は、冷静に対応するよう記者をなだめるだけで、その結果、これらの記者からの質問を受けないまま記者会見を終えました。これも「正しさ」に欠ける行為です。

 不祥事が生じた際のコンプライアンスの鉄則は、

  • 覚悟する、
  • 都合の良い情報にしがみつかない、
  • 隠ぺいしない、の3つです。

これらがなければ、報道は続き、その結果、レピュテーションが下がり、会社を守れず、社員に精神的、経済的な損失を与えることになってしまいます。

 会社にとって厳しい状況に置かれた時は、「正しいか、正しくないか」と「社員を大切にする」との価値を二項対立として考えるのではなく、両立して考えることが大切である!この問題はそのことを改めて考える機会となりました。

 (学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)

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