多様な働き方時代の就業規則と労働契約
就業規則には労働契約における「定型約款」的な性格があります。
労働契約法7条には、「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と規定されています。法律の文言はもってまわって分りづらいですが、就業規則を周知していれば、それが労働契約の内容になるということです。2017(平成29)年に民法が改正されて、民法に始めて「定型約款」による契約が定められました。皆さまご承知のように、銀行取引やソフトウェア等の契約の際に、既に印字された契約内容に同意(合意)すると、それが契約となるものです(民法548条の2)。
個別の交渉によって定款とは異なる合意をすることはできません。
会社と雇用契約を締結した社員は、もれなく就業規則の内容に合意したものとされます。社員にとって、この就業規則は労働契約の契約内容になっているのですから、とても重要な内容となります。
しかし就業規則と定型約款が違う点は、個別の労働契約によって、労働条件を変えた合意ができる点にあります。
ただし条件があります。それは、就業規則には、「労働条件の最低基準効」といわれるものです。これは労働契約法12条に定められています。「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」とされているものです。つまり、就業規則の基準よりも低く労働条件を個別に合意しても、それは無効と言うことになります。
したがって就業規則よりも低い基準の労働条件でない限り、個別契約が有効となります。
働き方の多様化の時代になり、労働契約を個別に締結することが重要になってきました。それぞれの働き方に合せて、労働条件を個別に定めることを積極的に活用していく時代になってきたと言えます。ただし、この場合は、どの点について個別の多様化を認めるのか、就業規則で、「○○については、個別の労働契約の定めるところとする。」と明らかにしておくことが重要です。
(学会 法務部会 常任理事 弁護士山田勝彦)
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